第10話 面影の鎮魂歌(レクイエム)
懐かしい面影に・・・
憧れを抱きながら・・・
過去の自分を殺して・・・
いらいらいら・・・
日向は今、とても苛立ちを覚えていた。望まない帰還を強制的にメガルにされた上にカックスもメーシャもいないのである。他のみんなも然り。
ちなみに今、OMZ内はモンスターが襲ってくる心配もないので、見張りを除いて皆休憩中である。
「全く・・・余計なコトしてくれちゃって・・・!!」
言いながら日向は誰もいない広い中央司令室をあてもなく歩き回っていた。
「・・・・・・」
しかし、日向はそんなメガルの事をやはり完全に憎むことは出来なかった。手段はどうであれ、メガルが日向を助けたことになっているのは事実なのである。日向があの時OMZに戻ってきた瞬間、レーザーの乱射はやんだのである。
日向は、ある光景を思い出していた。
『人質だからこそ、今ここで死んでもらっちゃ困るんだよ!!』
そう言ったときの、メガルの真剣な眼差し・・・。考えたら、何でメガルはあたし達の敵なんだろう?メガルは一体何が目的なの?何のために私を人質に・・・?どうしてだろう・・・そうまでしてあたしにかまったのはなぜ?
考え事をしながら歩いていると、何かにつまずいてこけそうになった。
「おっとっと!!何?・・・何コレ・・・?」
今自分がこけそうになった場所のタイルの上にダイヤルが付いている。おそらくコレでこけそうになったのだろう。
そのタイルの上にザダーザムの文字で何か書いてあった。カックス達にいくらか教えてもらったので日向でもいくらか読むことは出来る。
同じ 世界に 生きて
違う ものを 求め
きっと 見つかる ものを
いつか 叶う ものを
誇り高き 君がいるから
翻訳するとこう書いてあった。
「何これ・・・・?詩??でもきっと何か意味があるのよねぇ?こんなところに書いてあるんだし。」
頭を抱えた日向だが、ふと思い出した。ザダーザムでは言葉などを数字に変換することもあるのだ。
「えぇと、カックスが言ったとおりに変換すると・・・」
5 10 1
7 3 4
9 20 3
9 2 3
9460 218
「・・・・何だろこれ?もしかしてこのダイヤルをこの通りにすれば何か起こったりして・・・。ありきたりだけど・・・。」
半信半疑でダイヤルを回すとなんと!!文字があったタイルが開いたではないか!!しかも、その奥に階段が続いている。
「・・・・・」
どうしよう・・・あたし的には入ってみたいかも・・・でももし行って帰って来れなかったらどうしよう・・・・
そんなことを思っている日向の足はすでに階段を下っていた。
*
OMZテレポートポイント・・・テレポーテーションを使えるものがOMZから出たり入ったりするときに使う場所である。・・・
今その場所にはラルーシアから帰還したカックス・シュードとメーシャ・パプリース、そしてなぜかぐったりしてメーシャに抱えられているSO−072がいた。
「何てコトしてくれるんですかメーシャ!僕は日向を探しにラルーシアにいたのに強制テレポートさせるなんてひどいですよ!!」
『大丈夫。ヒューガはもうOMZにいるよ。』
「何でそうわかるんですか?」
『・・・・・そんな気がするだけ。』
「それじゃあわかりませんよぉ!!」
カックスが憤慨する。
『ピポピポパポ、プピッポー★』
「まったく・・・」
とりあえず何とか落ち着こうと深呼吸をした。
冷静に物事を考えると今までわからなかった事がわかってくるのはこんな時だろうか?カックスはふと気になったことがあった。
「そういえばメーシャ。」
SO−072を回復させるためにコンピューター室へ向かっているメーシャにカックスは語りかけた。
『何だい?カックス。』
「・・・・ずっと行方不明だった貴方がなぜ今になって姿を現したんですか?」
『!!』
何かに驚いたようにメーシャは言葉を詰まらせた。予想もしない質問だったのだろう。
しかし、ここで驚きをあらわにすればカックスのこと。結局は真実を話さなければならなくなる。今はまだ『時』ではなかった。
『何を言い出すかと思えば・・・行方不明者が見つかるなんていつだって偶然じゃないか。偶然の賜物だよ!』
「偶然の賜物・・・ですか・・・」
『それよりホラ!早くヒューガの所へ行ってあげなよ!僕も早く072を連れてかないと、こいつ文句言うからさ!』
『ブーーー★』
言ってる側からもう072の「早く連れてけ」コールが始まっている。実は072は機械のくせに意外とわがままだったりするのだ。
「・・・・・わかりました・・・」
それだけ言うとカックスはメーシャが教えてくれた日向が待っているとされる場所:中央司令室へ向かった。
そんなカックスの後ろ姿を眺めながら機械少年:メーシャは思った。
『待ってくれる人がいるって・・・・・「生きている」っていう証・・・なのかな・・・・』
*
「うう・・・・ヤケに長いなこの階段・・・」
今日向が降りている階段がどこにつながっているかわからないだけによけいに長く感じる。
「しかも暗い・・・」
日向の周りだけは一応通信機に付いているライトで見えるとして他は真っ暗で何があるかわからない。
弱気な日向なだけに一人でいるとき暗闇ほど怖い物はない。
「こんなときカックスか他の誰かがいれば・・・」
やっぱり上の中央司令室で素直にカックス達を待っていればよかった・・・。そう思ったが今さら戻るのもやはり怖い。結局進むしかなかった。
「・・・・・階段が終わっても何もなかったらどうしよう・・・それとももしかして・・・この階段終わりがなかったりして・・・!!」
日向がそう思ったのには訳がある。そう、階段の形が普通の直線階段から「終わらない階段」で有名ならせん階段に変わっていたのだ!!
「いやあぁぁ!!もう進めない!もう歩けない!!誰か助けてぇぇぇ!!!」
「どうしました?見ない顔ですが・・・」
聞いたことのない声だ。メガルでも、メーシャでも、誰でもない。らせん階段のずっと下の方から聞こえてくる。
「・・・・・誰?」
恐怖に震えた声で日向は見えない声の主に話しかけた。
すると、下の方から緑色の光が一気に辺りを照らし出した。そして、その中に、今の声の主と思われる女性がいた。スクリーンに映っているみたいで、少し像がうすい。
「知らないでここに迷い込んだようね・・・。でも、その通信機を見る辺り、敵ではないわね。----私はザーグ・セレス。このザダーザムの現コマンダーよ。あなたは・・・データによれば確か今回召還されたトリオファイターのヒューガ・・・だったかしら?」
「○◎●=※☆★α!?」
「フフッ・・・怖がらないでもいいのよ。まぁ、この姿じゃ無理だろうけどね・・・。だって、私既にこの世に存在していないんだもの。」
「!!!!!(ユーレー!!ユーレー!!いやあぁぁあぁぁぁ!!!)」
「そういえば、あなたって確かカックスのパートナーだったわよね?あの子の事・・・どう思ってる?」
「どうって----頼りになるし・・・優しいし・・・とてもいい人だと思うん・・・ですけど・・・」
「けど?」
「あの人は私に何か隠してる!そんな気がしてならないんです!現にあの人は初対面で私の名前を知っていました!!」
「!?そうなの?」
「カックスだけじゃありません・・・メーシャもメガルも・・・みんな何か隠してる!!どうして!?どうして私はみんなの事を知っちゃいけないの!!?」
はっ・・・・・
いつの間にか日向の心から恐怖は消え、代わりに怒りが渦を巻いていた。---誰も信用してくれない---その思いが一気に爆発していた。
「ううっ・・・・」
そう思うと、日向は涙が出てきた。----お願い・・・誰か私を信じて・・・----
「・・・・信じてくれる人はいます・・・」
カアァァァァァァァァ・・・・!!
緑の光が更に増した・・・
*
「日向!」
気が付くと、私は元の休憩所のソファー(?)に寝かされていて、カックスが側にいた。
「あたし・・・・!」
がばっ 私は急いで起きた。さっきのザーグ・セレスさんがどうなったか気になったから。
「カックス!あたしさっきまでザーグ・セレスって言う人と話をしていたの!彼女の話しぶりからしてあなたと何か関係があるみたいだけど・・・あなたの叔母という関係以外に。」
するとカックスは急に立ち上がってこっちに背を向けて少し向こうに歩きだして言った。
「やはり見てしまったのですね・・・。あなたが倒れていたのが例のパネルの上だったのでまさかとは思いましたが。でも、まだそれを話すべきではないと思います。」
どうやらあたしはさっきの光で中央司令室まで戻されたみたい。そこをカックスが見つけてここまで運んでくれたらしいのはわかったけど今の私が気になるのはそんな事じゃない!
「どうして!?やっぱり私のこと信じてないの!?」
「そういう事じゃありませんよ。あなたのことはちゃんと信じていますから安心して下さい。でも、彼女の事を話すとなると僕の父のことも話さなければならないし・・・。今はまだその『時』じゃないんです。」
『時』・・・?さっぱりわけがわからない。カックスのお父さんって?
私のまわりにはてなマークがどんどん増えてくる。
「日向・・・υそこまで混乱しなくても・・・いつかは全てお話ししますから。」
「うん・・・わかったわ。」
その時はそれでその場を後にした。
「でもやっぱり気になるーーー!!!」
ぷんすかぷんすか!
でもいつまでも苛立っていても仕方ないので、外の空気でも吸って落ち着こうと思い、ハッチの方へ足を進めた。
ハッチが見えてきた所で、何やらハッチの方から聞き慣れた声がする。
『なぁ・・・お前は本当にそれでいいのかよ?』
『何が?・・・ああ、その事か。僕が損するだけでしょ?』
『それもそうだが・・・以前はそれで良かったかも知れねぇ。でも今はもう状況が違っちまったんだ。オレもお前も・・・』
『(くすっ)彼女のコトかい?キミって意外と優しかったんだね。』
『ばっ・・・だから違うっつってんだろ!』
なに?何を話しているの?声からして一人はメーシャ、もう一人は・・・
!まさか・・・まさか・・・!!