第9話 それぞれの苦悩

どんなに悪い人でも・・・

             どんなに幸せな人も・・・

                          悩み苦しみます・・・

ブオォォン・・・!

・・・もう目を開けてもいいのかな?

おそるおそる目を開けてみると、そこはOMZの中央司令室の中だった。

・・・も・・・戻ってきたんだ・・・!やっとここに帰って来れたんだ・・・!!!

「カックス〜〜!!」

思い切り喜んでカックスを探そうと名前を呼んでみたが・・・

「あ!ヒューガ様!いいところへ帰ってこられました!!・・・非常に残念な報告です。」

カックスの部下だろう。ヒューガの姿を見つけると、非常に残念な顔をしながら言った。

え!?

「ケイ様とメサス少佐はチャージャンに、カコト様とロザック大佐はオーガナに囚われの身。おまけに頼みのカックスサブコマンダーはラルーシアに突撃されたまま未だ帰って来られません・・・。」

う・・・そ・・・!!カックスがまだラルーシアに!?

すると別の部下が、

「ヒューガ様!どうやらいつのまにかSO−072もいないようです!!」

072まで!?

そういや072って結局一体どこ行ったの?メーシャとはぐれる前からずぅっといないじゃない。

そうよ。メーシャだってまだラルーシアじゃない・・・!

「・・・!!!」

一気に怒りが爆発した!あたしを心配してくれたみんなを置いて勝手に帰ってきた自分と・・・!

「メガルのバカァァァ!!!!」

                   *

『へっくし!』

こちらラルーシア城。のメガル・クライジストン。

『風邪でもひいたかなぁ?いやそんな事はねぇはず・・・。』

言いながらメガルは天井の方へ目をやる。

『それにしても・・・オレとしたことが・・・。何で日向に「ワイルド・スナイパー」なんて慣れねぇ呪文使っちまったんだ?おかげで今オレは魔力の使いすぎで体が動けねぇ状態になっちまったのによ・・・。ふっ、こんな時にトリオファイターにでも襲われてみろ、一発であの世行きだな。』

そう。今メガルは疲労のあまり体が動かせない、いや動かないのだ。強いて言うなら肩で息をするのがやっとだった。しかも、日向を怒らせるきっかけになった例のハッタリの中に、本当の傷も何カ所かあったのだが、結局どさくさに紛れて日向に手当てされずじまいであった。おかげで、今になってひどく痛むのであった。それが手伝っているせいもあって、体が動かないのだ。そして、こんなになるまで日向を守ろうとしたその時の自分の気持ちが思い出せないでいた。

そして、なぜか忘れられないハッタリ事件の時の日向の涙・・・。

『く・・・そ・・・!何・・・で・・・今・・・さ・・・ら・・・?』

すると物陰から声が!

『きっとそれはキミがヒューガのことを「大事に」思っているからだよ。』

本来なら殴りかかりたいところだが体の状態がそれを許さなかった。なので目で精一杯声の主を睨み付けた。

『バカヤロウ・・・!それってまるでオレが日向にゾッコンみたいじゃねぇか・・・』

『僕は何も「想って」いるとは言ってないよ。人質として大事に「思って」いるのかも知れないじゃないか。』

『・・・!・・・』

『ハハハ・・・キミは相変わらず引っかかりやすいなぁ!それより、帰らないか?キミも大分疲れてるみたいだし、そのままじゃいずれ「原型」に戻っちゃうぞ?原型に戻ったところをカックス君達に見つかってしまってもいいのかい?』

『フン・・・勝手にしろ・・・』

それだけ言うとメガルは目を閉じた。

『フフ・・・言っておくけどキミの隠し事はどんな事をしようと僕にだけは隠せないからね・・・。・・・楽しむときも、悲しむときも・・・悩むときも・・・ずっと一緒だ。』

かつがれたメガルは表情でその言葉に応えた。

見るからに「勝手にしろ」と言いたげである。

一通りの会話が終わると、二人の人影はラルーシア城を去った。

いや、実はもう一人一緒にラルーシアから去った訳だが。

去ったと言うより「消えた」の方が適切か・・・。

                   *

「やったのじゃぁ〜!」

こちらチャージャンの移動要塞の中。捕らえたメサスと螢を前にリャージンが喜んでいる。

「やったのじゃっ、やったのじゃ!ついにトリオファイターが戻ってきたのじゃ!!」

「ねぇ・・・ちょっと・・・」

「わぁ〜いわぁ〜い!」

メサスが何か言おうとするが聞こうとしない。

「あの・・・」

「やったやった!」

「すいませ〜ん・・・」

「キャハハハハ・・・」

こんな調子でいつまでも続けられたのだから螢としてはたまったもんじゃない。ついにしびれをきらした螢が怒鳴った!

「人様の話聞かんかい!このガキ!!」

びくくっ!あまりの螢の剣幕に驚いたリャージンは騒ぐのはやめたがつい剣幕の度が過ぎたため・・

「う・・・ガ・・・ガキだりゃ・・・?」

ひっく・・・う・・・え・・っぇ・・・

「や・・・やばいかも。」

「もしかしなくてもこれは耳栓の準備ね。」

そんな会話をした途端!!

ふええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!わぁぁぁぁ〜〜〜ん!!!

あぁぁぁぁぁぁぁぁん・・・・

きいぃぃぃぃぃん・・・・・

耳センをする間もなく鼓膜を破らんばかりの勢いでリャージンが泣き出した。

「お・・・落ち着きなさいませっっリャージン様!!リャージン様は決してガキなどではございませぬ!!誇り高いチャージャン王族の第一皇女であれせられます!!」

必死でなだめるチュングル。果たしてこの決死の叫びはリャージンの心に届くのか?

「チュングル〜〜〜!!それは聞き飽きたのじゃぁ〜〜〜!!!うわあぁぁぁ〜ん!」

・・・心に届く前に鼓膜で跳ね返されてしまった・・・。あやし言葉に好みなどあるのだろうか・・・?

実は、泣いているリャージンをなだめるチュングルも泣いていたりする・・・。

「リャージン様ぁ〜お願いだから泣かないで下さいませぇ〜!わあぁぁぁ〜ん・・・・」

ついにどうしようもなくなってしまった。「もう何が起こっても知らない」といった感じで、メサスと螢は肩を落とした。

「泣きたいのはあたし達の方よぉ〜!!」

                   *

てんやわんやのリャージン達はさておいて、こちらはネーザス、グングース姉弟率いるオーガナの一行。

「・・・!?こいつらは・・・!?」

「は!」

捕らえた二人:ロザックと渦殊を前に、ネーザスは顔をしかめた。

「前にここに来たファイターとは違うやつではないか!!」

「か!」

それを聞いた渦殊はロザックに耳を寄せると小声で聞いた。

「おいっ、どういうことだよ!俺達よりも前にファイターがいたって言うのかよ!」

するとロザックはネーザス達に怪しまれないよう、視線を気にしながら渦殊の耳元で小声で話した。

「まぁな。聞いた話じゃ三十年くらい前がラルーシア、二十年くらい前がチャージャン、十年くらい前がオーガナ、んでもって最後の今回はザダーザムと、それぞれトリオファイターが召還されている。誰の意志によって召還されているのかはわからないが、定期的に召還されてるみたいだ。大体十年おきくらいに。」

「何で定期的・・・」

「知らないって言ったろ?」

「ネーザス様、グングース様。」

突然老人の声が割り込んでくる。オーガナの姉弟の爺、ズーツァイだ。

「何だ、爺。」

「その方々は捕らえた者達と言えども客にございますれば、お茶でもお出ししたいかと・・・。」

ネーザスがキレる。

「ばか者!捕虜に至れり尽くせりするヤツがどこにいる!?そいつらはしばらくそのまま牢にでも放り込んでおけ!!」

----------じゃあ人質に至れり尽くせりしたあげく自身がトンデモナイ状況に陥ってしまったメガルはどうなる?----------

有無を言わせず、渦殊達は牢へ引っ張られていった。

「なっ、ちょ、待て!話くらい聞け・・・」

「問答無用。」

ずるずるずるずるずる・・・。 

全く・・・みんなしてメガルをけなし放題けなしちゃって・・・・

 

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一方、ここは元の世界。

「ではこれでT時間目を終了いたします!コンピューターの電源を切って下さいぃー。」

がやがやがやがやがや・・・・キィーンコォーンカァーンコォーン〜・・・

チャイムが鳴ると生徒達は部屋を出始めた。大部分の生徒が出たとき、4、5人の女子生徒と、一人の男子生徒が一台のパソコンを前にして、ずっとおろおろしている。

講師は気になり、声をかけた。

「どうしたんだい?授業は終わったよ?君たちも教室に帰ったら?」

「・・・・先生・・・」

女子生徒の一人がおそるおそる声を出した。何かに怯えているようで声が震えている。

「??」

「・・・さ・・・早乙女君が・・・いないんです・・・。あと、渦殊君も・・・!」

男子生徒も怯えている。

「何だって?」

「それに・・・それに螢ちゃんもいないんです!!」

「咲春原さんもいないみたい・・・」

「ウソだろう。冗談もいい加減にしなさい!今の授業中、誰も外に出ていかなかったぞ!!」

最近、この学校の生徒はコンピューター室でこの手の冗談を使う生徒が多い。なぜなら・・・

「せっ・・・先生・・・それに、このパソコン・・・一台だけ・・・操作が効かないんです!コンセントを抜いても画面が消えないんです!!」

「何!?!?!?!?!?」

その一言を聞いて講師は全身が動かなくなった・・・。

そう・・・。消えるときに、妖美な光を放つ、あの「例」のパソコン---------

そのパソコンは、光を放ったり、文字を勝手に打ち出すだけでなく、過去に三度ほど、人を吸い込んだという噂がある・・・。

講師はその場にへたりこんだ。

「う・・・うそだ・・・まさか・・・あの噂は本当だったのか・・・!?!?」

「先生!パソコンが!!」

急ぎパソコンに目をやると、噂通り、妖美な光を放ちながら、そのパソコンは、画面を消した・・・・。

日向達を吸い込んだ、幻のパソコン・・・。その様子を、またもや警備員山口さんはながめていた。

「・・・ついに動き出したのか。あの悲劇のゲーム、『LALUWSEA』・・・いや、今はもう『ZADARZAM』に名を変えていたな・・・。一度入ったら、クリアするまで戻ることは出来ない、引き返すことは許されない、絶望と、悲しみの・・・物語が。」

その夜、誰もいない学校で、そのパソコンは姿を消した。

まるでパソコン自身に意志があるかのように、フッと静かに消えた。

 

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