荒野の大木の下。
「釘頭呪!!」
公明がわら人形を構えると、空の彼方から声が響いた。
「公明・・・」
それは随分と懐かしい、しかしよく聞きなれた声。
「親・・・・父!?」
「・・・・・・・三人の娘達を・・・よろしくな・・・」
それきり、声はやんだ。そしてふいに構えていたわら人形の、首の辺りを結わえていた紐が切れた。
―――・・・・なんだ?今のは。
「お兄様ーっ!!!」
向こうの方から息を切らして走ってくるのは、瓊霄を背負った碧霄。
見たところ、様子が尋常ではない。・・・・確実に、何かが起こった!
「どうした!?何があった!!」
「早・・・く・・・早く行って!!早く!!!」
すっかり取り乱した碧霄は、用件も話さず、兄の背中をぐいぐいと押す。
「お姉様が死んでしまう!!」
――――雲霄がやられる・・・!?まさか、「やつ」がついに動いたのか!?
「碧霄!お前らはここにいろ!!絶対来るんじゃねえぞ!!」
「お姉様を助けて!!」
碧霄の悲痛な声は、すぐに遠のいた。
「疾風・・・!」
ビュン! 影嘉の顔面に構えられた雲霄の掌底から風の渦が起こる。
そしてそれは影嘉の顔面に直撃した。
衝撃で思わず手を放し、顔を押さえて後ずさる。
「あああっ!!!・・・あんた、その技、蘭霄の・・・!!」
解放された雲霄はしばらく咳き込んでいた。
まだ雲霄が回復しきる前に、影嘉が立ち直る。
「二度目は無いと思え・・・はあぁっ!!」
小刀を取りだし、雲霄に向かって行く。
「死ね!雲霄!」
「雲霄!!」
ザシュッ 真っ赤な血がほとばしる。
その血は肌を伝い、床に落ちる。
しばしの沈黙の後、かすれた声が響いた。
「お兄・・・・・様・・・」
流れていた血は雲霄のものではなく、それをかばった公明の腕から流れたものだった。
手の甲辺りから肘の辺りまでばっさりと切りつけられている。
しかしその深手を気にするでもなく、公明は雲霄に目をやった。
まだ苦しそうに顔をしかめながら首を押さえている。
―――首をしめられたのか・・・・
「てめえ!何で雲霄を殺そうとしやがった!?」
「おやおや、公明様じきじきに御参上かい。ちょうどいい・・・いいことを教えてやろうか・・・」
影嘉の様子が変化していく。
はじめは人間の女性の形をしていた「それ」は、やがて異形の巨大な妖魔へと形を変えた。
「てめえも・・・結局妖魔だったのかよ!!」
「ククク・・・はじめは人間だったさ。だが私はこの日の為に、妖魔に魂を売ったのさ。力を得る為に!
・・・・・ま、今となっては・・・お前達の魂さえ食えれば、仇なんてどうでもいいんだがね!」
妖魔に魂を売ったものの、逆に妖魔に食われたか・・・
哀れな者の。なれの果ての姿を見たような気がした。
「行くぞ!!死ねえぇぇ!!」
鋭い爪で引き裂かれそうになったところを、間一髪で避ける。
「くっ・・・」
只者ではない。その辺のザコ妖魔とは、ケタが違う。
・・・・・・妹達がここにいるのはまずい!
「雲霄、立てるか?」
「ええ、何とか・・・」
「碧霄と瓊霄を連れて、こっから逃げろ!ここにいたら危ねえ!」
「でもお兄様を置いては・・・」
戸惑う二人を眺めていた影嘉は、たっぷりといやみを込めながら言い放った。
「残念だったねぇ。この集落で生き残っているのは、あんた達四人だけなんだよ。」
「んだと!?」
「あとは全部、あたしが引き連れてきた妖魔が食ってったよ。
満足したみたいだねえ・・・この集落のやつらの魂は位が高いから・・・」
影嘉が高らかに笑う。
「お兄様・・・囲まれています。」
押し潰されそうなくらい。多くの妖気。
そしてまた、5年前と同じくどうすることもできない自分。
―――またかよ・・・・また俺は、こいつらを守れねえのか!!
「ち・・・くしょう・・・・」
「諦めるんだね。冥土の土産に一つ、いいことを教えてやろう。
・・・・・私が先ほど占ったところ・・・お前達の父親の邑は、つい先刻討死した!」
あまりのショックに、碧霄が叫ぶ。
「う・・・・そ・・・・嘘よ!お父様が死ぬはず無い!!だってお父様は・・・」
「見事に首を切られてたよ。儚いねえ!ハッハハハハハァ!!」
―――親父・・・・・
なんだよ、さっきのはそういう暗示だったのかよ。
先ほど首の紐が切れたわら人形を握り締める。
―――ハハ・・・なぁ、親父。俺はあの時、確かにこいつを受け取ったけどよ・・・
まさか、形見になるなんざ・・・・・
「聞いてねえぞクソ親父―――!!!」
「お前ももう終わりだよ!」
床に拳を叩きつけて悔しがる公明に影嘉が襲いかかる。
「やかましい!!」
あとわずかな所で、公明が素手で影嘉を殴り飛ばした。
「雲霄!・・・こいつだけは、何としても倒すぞ!!」
「はい!」
まだ起き上がらない影嘉に、公明は形見のわら人形を、雲霄は掌底をかざす。
「ぐ・・・・」
「くたばれ妖魔!!釘頭呪!!」
「皆の仇、討たせて頂きます!疾風!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁ・・・・・」
二人の技が、影嘉に直撃した。
外の妖気が一気に失せて、妖魔達が大将がやられて退いていくのがわかった。
それまで影嘉がいた場所には、風に吹かれる灰の塊が残っていた・・・・
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公明様の過去第五話。
影嘉さん、優しい人かと思ったら、ついに本性出しましたね。
そして、ついには妖魔に変化。うわぁ・・・
雲霄姉さんの「疾風」は、みなさん御存知の通り
HPが1回で1になってしまう、恐怖のあの技です。
公明様処刑ルートでのみお目にかかれる技ですが・・・・
ちなみに、私は実際にこの「疾風」を見た事も食らった事もありません。
だって、公明様を処刑するなんて、私にはできませんよ。いくらゲームでも・・・ねぇ。
次が、最終話です。
ま、ここまで読んだら、もう最後まで読んじゃいましょうよ。ね?
・・・・・この物語は全てBGMはFF]のOPでどうぞ・・・・・
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