初夏の風 〜風に委ねる〜 |
ふよっ
物を言わぬ釣り人は、
これから釣れる魚を眺める。
本当の魚を地上から眺める様に
中空の空から「魚」を眺める。
「あれれ?やっぱりこの人何しても起きないよ?」
「羊、お前この人乗せてて重くないのか?」
「ねぇ、この人どれぐらい寝てるのかなぁ?」
「お父さんが言ってたよ。もうかれこれ5年近く寝てるんだって!」
「へぇ〜5年間も!羊、お前よくがまんできるなぁ!」
『別に』
「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!羊がしゃべったぁ〜〜〜!!!」
子供達は驚き、あまりのショックに皆走ってその場を去って行った。
「やれやれ。この期に及んでわしを呼んでおいて、何の用じゃ。
―――太上老君。」
すぅ・・・・「太上老君」と呼ばれた人物は相変わらず羊の上で寝そべりながら閉じていた目を開く。
そして今自分に語りかけた人物が視界に入ると言った。
「伏羲か・・・封神計画以来だね・・・。」
封神計画・・・およそ2100年ほど前に計画され、100年ほど前に実行に移し、完了した計画である。
『歴史の道標』:ジョカという存在を倒す為の計画で、表面上は「人間達が自分で作る新たな世界にする」というものだった。
そして今目の前にいる「伏羲」という人物は、その計画でジョカを倒した際に、
道連れにされ死んだはずの人物である。
「・・・話をそらすでない。大体おぬしのことだ。わしが生きておったことくらいわかっておったのだろう?」
「まぁね・・・。だからこそこうして私は貴方をを呼んだわけだし。
あの後、貴方が死んだにしてはどうも変だと思ったんだ。
確かに貴方の気配はどこにも感じる事は出来なかった。
でも始祖なら気配を消す事ぐらい何でもないでしょ?
それに・・・・・」
「それに?」
「太母なる大地・・・・グレートマザーとなった妲己が、貴方を見殺しにするはずがないと思ったから。」
「・・・・そうか。」
伏羲の表情が少しだけ変わった。
懐かしむような表情で、フッと小さく笑った。
サアァァァァァァ・・・
風が吹いた。
時を超える二人の世捨て人達に。
互いの思いを肯定もせず、否定もせず、
初夏の風は吹いてゆく。
「・・・・・降りてきなよ。遠くに向かって話すの結構疲れるんだから。」
「(全く相変わらずの怠惰老子め・・・・)わかった。」
伏羲は地上に降りてくると、老子の横に寝そべった。もちろん、羊の上で。
「それにしても老子よ。おぬしとてもう寝る必要は無いのだろうに。
おぬしが眠る事で見ていた夢の主・・・ジョカはもうおらんのだから。」
「別にいいじゃない・・・・・眠る事に本来は目的なんてないでしょ・・・・」
「まったく・・・・要はとことんだれたいのだな。おぬしはι」
「ぐーーー・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
二人の会話は始まったばかり・・・・
両者の敵でも、見方でもない風は
相も変わらずそよいでいた・・・・・