初夏の風 〜風が呼ぶ〜 |
ザアァァァァ・・・
風が通りぬけた。初夏の清々しい風が。
その風はとても気持ちよく、辺りの者達を癒していった。
そして―――この村にも風が吹いた―――
「うーんいい風だなぁ!」
「気持ち良すぎて寝てしまいそうだよ!」
「あ・寝ちゃうと言えばさぁ!あの人はどうしてるかなぁ?」
「あの人?」
「えー?知らないのぉ!?ずぅ〜っと前からヒツジの上で寝てる、あの人だよ?」
「あぁ、あの人か!」
「ちょっと見に行ってみようよ!」
「わぁあい・・・」
タタタタタ・・・
羊の世話をしていた子供達が一緒にいた親達の目を盗んで一斉に駆け出した。
そう。「あの人」がいる場所へ・・・
風は通りぬける。吹かれる者を癒しながら。
初夏の清々しい風は人を引き付ける物がある。
そして―――この場所にも―――
「おぉ、いい風じゃのう。」
「旅にも疲れた。すこしここのあたりで休んで行こう。」
「―――おや?あんな所で誰かが釣りをしとるぞ?」
「釣れるわけねぇよ。針が水についとらん。」
「おぉホントだ。」
「んなやつほっといて、こっちで一休みしようぜ。」
「・・・・・・・」
物を釣らぬ漆黒の釣り人は沈黙のまま釣りを続ける。
その針が釣るのは魚ではない。その糸が釣るのは・・
「―――釣れたのう・・・だが獲物が大きすぎてこちらからも手を伸ばしてやらぬと釣れぬわ。
仕方がないのう・・・桃源郷までひとっ飛びするとしようかのう。」
ふよっ 釣り竿をいずこかへしまうと、釣り人は宙を飛び、
桃源郷に向かって行った・・・
初夏の風は人を呼ぶ。
世を生きる者にやすらぎを、世捨て人達に幸せを、
それぞれの想いを乗せながら
初夏の風は吹いてゆく
清々しい初夏の、ほんの短い会話―――
その清々しさは碧い水晶の如く―――