君となら行ける
〜君と永遠を生きよう〜

 

二人で並んで岩の上に腰を下ろしていた。
どれくらいの時間が過ぎただろう?
このまま永遠にこうしていられそうな気さえした。
わしは渓流に釣り針を下ろす。
決して水面につく事のない針で。
普賢はわしの隣にいる。
わしの釣れない釣り針を見つめながら。
微笑みながら隣にいる。
それでよかった。
それで充分だった・・・

そのやすらかな一時を、一発の怒号がぶち破った。
「くぉら太公望!!普賢!!今スグ仙人界に帰って来んか!!」
びくぅっ!!
しまった!天尊様が目覚めたのだ!!
「どうする普賢・・・」
慌てふためいた太公望は普賢の顔を見る。
しかし普賢はやはり笑っている。
「仕方ないよ。帰ろう。」
笑いながらそう言うのだ。
「はぁ〜・・・またあのじじぃの説教を長々と聴かねばならんのか・・・
普賢。仙人界に帰ったらおぬしは先に帰っておれ。」
「ううん。僕も一緒に叱られてあげるよ。望ちゃん。」
何!?
「冗談はよせ。元々この計画はわしがお主にけしかけたものだ。
おぬしに罪はない!」
「でも『計画に乗せて』って頼んだのは僕自身だよ。
僕だって共犯なんだから、一緒に怒られるのは当たり前じゃない。」
「普賢・・・おぬしという奴は・・・」
こみ上げそうになる涙を必死で抑えた。
普賢の気持ちが正直嬉しかった。
「さ、行こ。一緒に怒られて、一緒に押お仕置き受けようよ。
安心して。望ちゃんを置きざりにしたりしないから。」
普賢は黄巾に乗るわしの背中を押した。

この言葉を、太公望は、仙界大戦の後、どれだけ悔やんだであろう。
  一緒に・・・いつも一緒に・・・
    でもお前は行ってしまったじゃないか・・・!!
      わしを一人置いて、お前は行ってしまったじゃないか!!!

崑崙山玉虚宮・謁見の間・・・
二人の道士がこってり叱られていた。
でもいやな気持ちは一つもしなかった。
苦しさ、辛さ、痛さを
共に分かちあってくれる友がいたから・・・

翌日。
「うー!昨日はこってり怒られたのう!!」
「お仕置きもたっぷりされたね。」
「まぁのう!おのれあのくそじじぃ、今に見ておれ〜〜!」
「望ちゃん・・・ι」
少し間を置いて太公望はちらっと普賢の顔を見た。
笑っている。
いつもの優しい笑顔で。
でも太公望は普賢に言わねばならない事があることは重々わかっていた。
「―――の・・・のう普賢。」
「どうしたの?望ちゃん。」
イマイチ自分に素直になれない太公望。
普賢に自分の気持ちがなかなか伝えられないでいた。
ホンの5文字の言葉なのに・・・
「・・・・ありがとう」
「何が?僕は当たり前の事をしただけだよ。」
「おぬしにしてみれば確かにそうかも知れんが
わしはとても有り難かった。
きっとおぬしがいなければ、
わしは今頃天尊様の言葉に打ちのめされていたよ。
でもおぬしがいたから、平気でいられたのだ。
変な言いかただが・・・一緒に怒られてくれてありがとう。」
有りのままの気持ちを打ち明けた。普賢も充分わかってくれたみたいだ。
「望ちゃん。あのね・・・」
「何だ?普賢。」
普賢も何かを打ち明けたそうにしていたが・・・
「―――ううん。何でもない。
望ちゃんがそう思ってくれたなら、僕はそれで充分だよ。」

この時普賢が打ち明けたかった事は・・・
35年後、太公望に直接打ち明ける事になる。
それも・・・よりによって・・・
自らの死の2日前に・・・


封神計画発動まで・・・・・
                         あと30年・・・・・

 

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