君となら行ける 〜人間界の1日〜 |
二人が乗った黄巾力士は雲海を行く。
「ふぅー!気持ちいいのう!普賢!」
「天尊様はいつもこれに乗ってるんだね!」
「まぁのう!だがおそらく天尊様の場合はコレよりも飛来椅に乗るほうが多いと思うがのう!」
風の音でお互いの声以外は聞こえなかった。
そして約10分後、ようやく(何とか)目を覚ました元始は
千里眼で二人を見つけた。
「お・・・おのれ普賢・・・太公望・・・やられたわ・・・」
「天尊様!!」
白鶴が側であせっていた。
「ところで望ちゃん。」
「何だ?」
「どの辺に着地するの?」
はっ そう言えば・・・
黄巾力士ばかりに気を取られていて着地の事を忘れておった!!
着地せねば始まらんではないか・・・
「すまぬ・・・考えておらぬι」
「くすっ そんな事だろうと思ったよ。待ってて。僕が人家の少ない所を
レーダーで探してあげるから。」
「レーダー?そんな事が出来るのか?」
ヴン!普賢は例の「太極符印」を出現させると
何やらカチカチとボタンを押してレーダーを使い出した。
「おおっ!この太極符印はそんなこともできるのか!!」
「天尊様が言ってたんだ。ついでに昨日いろいろ自分で調べたから。
どんな機能があるのかね。」
そう・・・この時既に・・・・
普賢は「自爆」の機能に気付いてしまっていた・・・・
そしてその封印を・・・
ただ一人の友のために・・・・
解いてしまっていた・・・・・・
ズウゥン・・・
黄巾力士は渓流のある森の中に着地した。
太公望は思いきり伸びをして人間界の空気を吸い込む。
「うーん!久しぶりでなかなか懐かしいものよのう!人間界も!」
「うん。僕もだよ。望ちゃん。」
そして首を180度回転させた太公望が見たものは・・・!?
「おぉっ!見よ普賢!!渓流じゃ!釣りが出来るぞ!!」
「釣り・・・」
「ほれ!行くぞ普賢!!こんな事もあろうかと、釣り竿を持ってきておったのだ!!」
「・・・・」
普賢は気乗りしなかった。
ただ趣味の為だけに生き物を痛い目に合わせるなんて・・・
でも望ちゃん、首戻そう?
「ニョホホホホ 釣れた釣れたにじますだのう!」
渓流で釣り糸をたらす事30分。
60年ぶりの人間界での1匹目である。
普賢はというと・・・
「望ちゃん・・・そんな事をするために人間界に来たの?」
そう。太公望が普賢にも釣りを勧めたが徹底的な平和主義者の普賢は
趣味のためだけに生き物を傷つける釣りなど以ての外だった。
よって、ただ水に足を入れてカニと戯れているだけであった。
「食べられないのに魚釣りなんていけないよ。」
「わかっておるわこの偽聖人め!ほいキャッチ・アンド・リリース!」
ポイ!ボチャ・・・太公望は魚を釣り糸から外すとまた川に戻した。
まったく・・・あんな薬を作っておきながら・・・
すると普賢は今までわしの座っていた岩の下の小岩で戯れていたのをやめて、
わしのいる岩に飛び乗ってきて言った。
「ねぇ、いい物をあげるよ!」
何だ?
「僕のお手製の釣り針だよ!」
おぬしさっきは魚釣りに反対していたではないか・・・
ってちょっと待て!!
「・・・・・・おいそれでは釣れんぞ」
プンスカ!わしをなめておるのかおぬしは!!
その針はかぎ状になっておらぬから魚が引っかかるわけがないのだ。
あげくの果てに針の先も鋭くはない。これでは突き刺す事さえ不可能だ。
でも普賢はいつでもわしの本当の心を見透かしている。
「望ちゃんは考え事をするために釣りをしてるんでしょ?
わかってるよ。」
わかっておるならなぜわしの釣りを阻止しようとする・・・
「でもそのために魚が痛い目を見るのは感じ悪くない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
それもそうだのう・・・
わしは考え直して釣り竿の針を普賢の物に付け替えた。
そしてまた渓流へ糸をたらす・・・
しかしそのまま認めてしまうのもわしらしくない。
普賢から目を背けるとわしは言い捨てた。
「おぬしは徹底して争い事が嫌いなのだのう。」
普賢はまた、例のように笑いながらわしの隣りに腰を下ろす。
「望ちゃんだって実はそうじゃないの。
だからこうして気が合ってる。」
少し沈黙が続いた。
全くの図星であったし、言い返す言葉も見つからなかったからだ。
―――親友とは、恐ろしいものよのう―――
めずらしく普賢が先に沈黙を破った。
わしの糸の先を眺めながら、普賢は言った。
「でも・・・・・・」
一息つくと普賢は言い出した。
「望ちゃんはいつか戦いにみを投じる気がする。
心の奥にギラギラ光る刃があるもの。」
普賢・・・
「その時には僕もキミの横にいるよ。
それぐらいの力はあるから・・・」
その時思った・・・
こやつは死んではならぬ。
死ぬべきではないのだと。
封神計画発動まで・・・・・
あと30年・・・・・