君となら行ける 〜密談〜 |
やがて・・・
日が差す日が多くなり、
あちこちで雪かきをしている道士たちを見かけるようになった。
玉虚宮では白鶴と太公望が―――?
「白鶴よ!」
屋根の上で雪かきをしている白鶴に向かい元始天尊は言った。
「はい、何でしょう元始天尊様。」
「太公望はおらんのか?」
「師叔なら今朝から雪かきをサボって行方をくらましております。」
元始天尊はため息まじりにいった。
「・・・全く太公望のやつめ・・・。雪かきも修行の一つじゃと言うに!
一体どれだけ修行をエスケープすれば気が済むのか・・・
すまんがひとっ飛びして探し出してはくれんかの?」
「かしこまりました。では。」
バサバサッ 白鶴は太公望探しに出かけたのでありました…
「・・・だから白鶴よ・・・飛び立つ時に雪を落として行くでない・・・」
こちら文殊広宝天尊の仙洞。
金タクが雪かきをしている。
まだこの時木タクはスカウトされていない。ナタクはもちろんだ。
「金タク!大変そうですね!」
「あ!白鶴じゃないか!久しぶり〜・・・うわ!」
ドスン! 溶け始めた雪と共に金タクは屋根から落ちた。
「痛たたたた・・・」
「どうしたんだい金タク?」
「あ、文殊師匠。雪かきしながら白鶴と話してたらつい屋根から落ちて・・・」
「白鶴・・・?」
「申し訳ございません。文殊様。」
白鶴は頭を下げて心から詫びた。
「いや構わないよ。大した怪我はないみたいだし。それよりどうしたんだね?」
「あ、実は師叔のことで・・・」
「太公望の事?」
かくかくしかじか・・・
「いや、見なかったよ。師匠は?」
「私も見なかった。」
「そうですか・・・お騒がせしました。では。」
「力になれなくてすまないね。」
「いいえ、とんでもない。」
バサバサッ 白鶴は次の手がかりを探しに再び飛んで行った。
「白鶴・・・雪落として行かないでよ・・・」
実は、その日太公望は普賢と共に雲中子の仙洞に泊まりこんでいた。
「わしがこうこう、こう持ちこむからおぬしはその時に・・・」
「いや、それはちょっと横暴だよ。もっと平和的に解決しようよ。」
「じゃあ、おぬしはどう思うのだ?」
「僕ならここをこう―――」
「なるほど。しかしそれではあからさま過ぎる。もっと目立たぬ様に・・・」
そう。来たるべき日に備えてより綿密な計画を練っていたのだ。
「う〜ん。難しいなぁ。まずは白鶴を眠らせたいところだけど
そしたら肝心の元始天尊様に盛る薬が無くなっちゃうしなぁ・・・」
普賢も平和主義者のクセになかなか恐ろしい事を考えるのう・・・ι
全くこのエセ聖人め。
「・・・わかった。こうしよう!わしが得意の口車で白鶴を誘き出す!
そのスキにおぬしは元始天尊様に睡眠薬を飲ませるのだ!」
「なるほど!さすがは望ちゃん。でもいくら計画でも元始天尊様に無理やり
飲ませるのは気が進まないから食事に混ぜて使うよ。少量でも結構効くらしいからね。」
・・・普賢・・・おぬしはやはり恐ろしいやつだ・・・
その天使のような笑顔には例え元始天尊様でも騙されるであろうよ。
「混ぜる食事は・・・人間界にはなるべく長く居たいし、朝食にしようか?」
「食事を運ぶのはいつも白鶴だぞ?」
「だから望ちゃんはその前に白鶴を誘き出しておいてよ。得意なんでしょ?
口車。」
「どうせ混ぜるなら主食より点心の方がいいよ。ゴマ団子とか。」
「うわぁっ!!!」
ぬぅっ
物置に隠れていたのがばれたのか、雲中子がいきなり顔を出してきた。
「混ぜて使うならその薬は甘味系の方が効果大だしね。」
雲中子・・・それも恐怖の実験から得た結果か・・・?
「あ・・・そう言えば普賢よ・・おぬし確かゴマ団子を作るのは・・・
得意であったろう・・・?」
「うん・・・」
ひくひくひく・・・
驚きから立ち直れず、言葉もまともに言えなかった。
少し時間がたって、ようやく思考がまともに回転し始めた頃、
太公望は大事な事に気が付いた。
「はっ そう言えば雲中子よ!おぬしなぜわしらの計画に助言したのだ?」
「計画?計画か何かは知らないけどねぇ、私の実験結果が役に立つなら
いくらでも助言してあげるよ。」
・・・・なるほど・・・
要は雲中子は薬を混ぜるやり方のところしか聞いておらん様だ。よかった・・・
「師叔!太公望師叔!!」
むっ 聞き覚えのある声・・・
「おやおや白鶴じゃないかい。どうしたんだね?」
「うっ 雲中子様!太公望師叔を見かけませんでしたか?
元始天尊様の一番弟子ともあろう者が毎年恒例の洞内大掃除をサボられたのです。」
白鶴がわしを探しに来たのだ。元始天尊様に言われたのであろう。
せっかくいい所なのに・・・
「太公望ねぇ・・・」
雲中子は太公望達がここに居る事を知っている。
だからそのまま白鶴に言うかと思えば
「どうだったかねぇ〜?見たような見なかったような・・・」
・・・雲中子・・・おぬしもしや時間を稼いでくれてるのか?
話にケリがつくまで・・・
「望ちゃん。じゃあ、当日の計画はこれで行こう。僕は薬をもう少し改良
するよ。本当に完成したら望ちゃんにすぐ教えるからね。」
「わかった。ではわしも口車を磨いてくるか!」
そう言ってわしは物置を出ていった。
玉虚宮で・・・
わしはこっぴどく叱られた。普賢がついに帰らなかったのも含めてだ。
しかもよりによって説教が終わった後に雲中子から連絡があったらしい。
「普賢はこちらで預かっております。とてもいい実験材・・・いえ、
ちゃんと世話と修行はさせますんでご安心ください。」
雲中子・・・わしはお主に文句を言うべきなのか礼を言うべきなのか・・・
いやそれよりも!
―――何だか次に普賢と会うのが結構怖い気がする・・・