君となら行ける
〜玉虚宮の約束〜

 

「へぁ〜っくし!」
「っくしゅん!」
二人で揃って風邪をひいたわしらを見て元始天尊様はあきれた顔をしておった。
「全く・・・あんな所で真夜中に寝ておれば当たり前じゃ!
今の季節をいつだと思っておる!」
「う・・・」
確かに。
今は季節で言えば冬。わしが起きたくなかった理由の一つがそれだ。
「うっかりしたなぁ〜。コートでも着てれば良かったね。」
それでも普賢は笑っている。
・・・何がおかしいι
「うむ。しかし風邪は仙薬では治らんらしい。二、三日はここから出られんのう・・・」
しかし普賢は笑っている。
・・・だから何がおかしい・・・
しまいに普賢は肩を震わせて笑い始めた。
「くすくすくす・・・・」
「?・・・普賢?」
すると今度は声を上げて笑った。
「あはははははははは!望ちゃん、本当に二、三日ここに閉じこもってるつもりなの?
僕にはそうは思えないけどな。」
「風邪が治らねば何をやっても思う存分にできんであろうに!・・・へーっくし!」
しかし本当は図星だ。
近々元始天尊様から黄金力士を盗んで人間界に行く計画を立てておるのだ。
まだ普賢には話しておらぬが・・・
「望ちゃん。僕ね、望ちゃんだから話すけど、実は隠れて雲中子様のところに
通ってるんだ。」
「何!?!?!?」
雲中子!?あのスプーキーのか!?
崑崙ではその「恐怖」を知らぬものはいない・・・
噂だから多少の誇張はあるものの、
雲中子を訪ねたが最後、命の保証もない実験の材料にされてしまうのだ。
「よせ普賢!早まってはならぬ!!実験材料にされても良いのか!?」
普賢はこっちの心配をよそに目を丸くして言った。
「? 何を考えているの望ちゃん。
誰も『実験材料』にされただなんて言ってないよ。
―――ちょっと『ある薬』の作り方を教えてもらいに行ってたんだ。」
「薬?何の為の薬なのだ?」
するといたずらっぽく笑った。「まだ秘密だよ」とでも言いたげに。
「自分でその薬ができたら、まず望ちゃんに見せてあげるよ。」
どうやら薬については教えたくない様だ。しかしわしはあえて深く聞いてみた。
「ではせめて薬の種類だけでも教えてくれぬか?例えば傷薬とか・・・」
すると普賢は笑って言った。
「望ちゃんだって、僕に何か隠してるんでしょう?じゃあ教える訳には行かないよ。」
「!!!!」
むぅ〜・・・やはりおぬしに隠し事をしても無駄か。
わしの心は常に普賢には見透かされておる。
かと言って、わしとて普賢の心が見えぬわけではない。
「普賢の薬こそ、実は結構『アブナイ』薬なのではないか?」
何てったって雲中子だし・・・
「じゃあ、望ちゃんのしようとしてる事を教えて。望ちゃん一人で
一人占めしようなんてだめだよ?」
・・・何だか責められてるのか励まされてるのかわからんではないか・・・
まぁよい!この際もうヤケじゃ!
「普賢・・・ちょっと耳を貸せ。」
「うん。」
辺りに誰もいないことを確かめて、普賢の耳元に顔を寄せた。
「実はな・・・・ゴニョゴニョ、ゴニョラ、ゴニョリータ!」
5分後。
「へぇ〜・・・なるほど。」
「誰にも言うでないぞ!これまで積み上げた全てが水の泡になってしまうからのう!」
「わかってるって!ただしその計画、僕も乗せてもらうよ!」
「なに?」
「望ちゃんのその計画に僕の『薬』を使ってあげるよ。今はまだ寒いし、
そうだなぁ〜・・・夏くらいまでには僕も薬を完成させるから。
その時にその計画を実行しよう!」
普賢はヤル気だ。この計画は今までは実行までは考えておらなんだが
この瞬間に実行が決定した。


「普賢よ・・・ちなみに薬とは・・・」
「うん。教えてあげるよ。―――睡眠薬さ!どんな強い人でも必ず眠らせる
事のできる速効性の薬!」
「・・・・・」

もはや言葉もなかった。やはり雲中子だ・・・
そんな危険な薬の製法を教わりに行った普賢の心もわからぬが・・・

 

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