この命尽きるとも 〜前兆〜 |
なんだ・・・真っ暗じゃねえか・・・
どこだ・・・ここは・・・
『何処を見ている。』
その声は・・・!!聞仲!!
生きてやがったのかよ・・・・!
『死ね!趙公明!!』
・・・嘘だろ?何だよ聞仲・・・その目はなんだよ。
俺だよ。わかんねえのか!?おい!聞仲!!
聞仲ーーー!!!!!
「あ!おいちゃん、めがさめたのだ。」
「ここは・・・今のは・・・夢か・・・」
どうやら西岐軍の医療室とみて間違い無さそうだ。
あのあと倒れた俺は、ここへ運ばれてきた。それぐらいの事はわかる。
「・・・なんで目が覚めたら1番にお前の顔が入って来るんだよ・・・」
「らいちゃん、おにーちゃんにおいちゃんのようすみとくようにいわれたのだ。
らいちゃん、やくそくまもるのだ!」
おにーちゃん・・・太公望の事か・・・
「ところで今みんなはどうしてるんだ?」
「いまね、なたちゃんがにばんめの”じん”をやぶっているところなのだ。
みんなおそとでまってるのだ。」
「そうか・・・・俺としたことが、秦天君ごときに・・・」
「でも、おいちゃん、ちゃんとかえってきたのだ。えらいのだ。
らいちゃん、ほめてあげるのだ!」
「陣を破って帰って来る事が、そんなに偉いのかよ・・・」
「あ・うごいちゃだめなのだ!おにーちゃんをよんでくるのだ!」
すると雷震子は背中から羽を出し、小さな体で太公望を呼びに飛んでいった。
・・・・・・不安で たまらなかった
さっきの夢が まだ脳裏に焼き付いていて・・・
真紅の、血の色の目をしたあいつが・・・・
死人の青白い顔で、この世の者とは思えぬ、恐ろしい形相で、「あいつ」はそこに立っていた。
―――シネ!チョウコウメイ!!―――
・・・・俺が殺されるのが怖かったんじゃない・・・・俺が不安でならねえのは・・・・・・
「趙公明殿!目を覚まされたのですね!」
部屋の入り口から太公望があわただしく入って来る。
「よかった・・・帰ってこられた時、左の首筋にひどい怪我をしておられたので
急いで安命術をかけたのですが、助からなかったらどうしようと思って・・・」
心から安心した、といった表情だ。そういえばあれほどひどかった首の傷はおろか、
全身の痛みも消えている。
・・・・・・ほんと、大将には向かない性格だな。こいつは。
「俺がこんな程度でくたばるほど、ヤワに見えるか?」
「ははは そうですよね。」
「・・・・・・・・なぁ太公望よぉ・・・・・」
いつになく少し困惑したような顔で趙公明が言った。
「何ですか?」
「・・・・お前なら、もし、自分が守りたかった奴が自分の敵に回ってしまったら・・・
どうする?」
「?」
「命を懸けても守りたかった奴が、自分の敵として戦いを挑んできたらどうする?
・・・・戦えるか?」
思ってもみない質問だった。いや、それよりも質問の意味が良くわからない。
少なくとも、趙公明殿は何かを感じている。
「どうかしたんですか?」
「・・・・・・・夢を見たんだ。奴の夢を。
・・・・・・ただ夢の中の奴は・・・・・俺の知ってる奴じゃなかった。
死人の形相をした、何とも哀れな姿だった・・・・・・」
「奴・・・もしかして、聞仲のことですか?」
「ああ。やつが・・・・夢の中で俺を殺しに来た。
だが、俺は自分が殺されるのが嫌だったんじゃねえ。
俺が不安でならねえのは・・・・・」
うつむいたまま趙公明は寝床を降り、部屋の隅に行った。
「・・・・嫌な予感がするんだよ・・・まさかこの夢が正夢になりゃしないかって・・・」
「まさか!聞仲は既に死んだんです!絶竜嶺で、僕達の目の前で三昧神火を放って・・・」
――聞仲は死んだ。――その言葉に少し胸を痛めたが
すぐに笑った。明らかに、悲しみを含んだ苦笑いで。
「そうだよな。奴がもう俺の目の前に現れる事はねえ。わかってたはずなのによ・・・
悪いな!変な話に付き合わせちまって!」
「いいえ。別に構いませんよ。」
何となくうれしかった。趙公明殿が僕に不安を打ち明けてくれるなんて。
ふと外が騒がしくなった。もう夜も大分深くなってきたころである。
が地裂陣から帰って来たのだ。