未来視達の出会いと別れ 〜老子と彪〜 |
私がその子を抱き上げようとすると、その子は何かを呟いた。
「・・・もれなかった・・・何もかも・・・失った・・・みんな・・・僕がもっと強ければ・・・守れなかった・・・!」
非常に悔しがっていた。
この頃まだ桃源郷は地上にあったからこういう人はよく見た。
5000年後で言う「王朝」というものはまだ存在しないけれど
民族間の争いが多発していた。
世間を離れていた私でも世の中が何となく不安定なのはうすうす感じていた。
近々桃源郷にもこの波が及ぼうとしていたしね。
きっとこの子の一族も他の民族と争ったんだろう。
そして負けた。
唯一の生き残りが・・・この子なんだろう。
「あんた・・・強いのか?」
見ると、弱った体を何とか両手で支えてこっちを見上げていた。
私は何も答えなかった。答えたところで何があるの?
この子の一族はもう全滅してしまったのに。
守るべきものがなくなってしまったのに今更強くなろうなんて・・・
「そのかっこ・・・あんた、仙人なんだろう?」
・・・・・きっとこの子は追い返しても私が口を開くまで追いかけ続けるんだろうな――めんどくさー・・・
そう思いつつ、私はついに口を開くことにした。
「・・・君はなぜ強くなりたいの?」
「僕は・・・守れなかった・・・。だから初めは相手の一族を怨んだ・・・『いつか皆殺しにしてやる』・・・と。でも・・・考えたら、結局何も片付かないんだ。皆殺しにして・・・それから・・・何をする・・・って考えたら・・・。
だから決めたんだ。――『いつか世の中全体を変えてやる』・・・そうすれば・・・終わるって・・・」
・・・一人で、しかもこの年でそこまで考えられるその子に私は思わず感服した。
「だから・・・力が欲しい・・・今の僕では何一つできない。他の圧力に負けてしまう。それじゃだめなんだ。どんな圧力にも負けない、強い力が欲しいんだ!つよ・・・い・・・ちから・・・が・・・」
がくっ それっきりその子は気を失った。
「・・・・・」
めんどくさいなー。気を失われるのが一番困るのに。
どうしようか。このまま風化するまで放っておこうか。
それとも・・・・・・
「『いつか世の中全体を変えてやる』そうすれば終わるって・・・」
・・・・・
「あんた強いのか?仙人なんだろ?」
仙人・・・私は仙人か・・・人は私を「世捨て仙人」と呼ぶけれど。
「力が欲しい・・・他の圧力に負けてしまう。それじゃだめなんだ。どんな圧力にも負けない、強い力が欲しいんだ!つよ・・・い・・・ちから・・・が・・・」
人は「力」というものをそういうものに使うのか・・・。
でも未来は変わらない。この子は『世の中全体を変える』と言うけれど。
どんな世の中でも、それは動物の社会においても同じ。
「衆」がいるからにはそれらをまとめ導く「長」が必ず要る。
「長」がいればそれをよく思わぬ者もいて、
よく思っても必ず自然環境なり何なりが変化して必ずその「衆」は滅ぶ。
滅びがあるから栄えがあり、生まれもある。
人はそれを「強制力」と言う。逆らう事のできない理。
「どんな圧力にも負けない、強い力が・・・」
この子は「強制力」をも打ち砕こうとしているのかもしれない。
理そのものを打ち壊し、自分の足で歩いてみたい・・・そう思うのかもしれない。
「・・・・・ちょっと試してみようか・・・・・」
「私もそやつを試してみたい。」
知らない子供が私の後ろにいた。しかしこの子は目の前の子とは違う。
何やら私達とは違う、懐かしいような、それでいてけた外れの気を放っている。
「君は・・・?」
「私の名は王奕。―――始祖の一人だ―――」
「始祖・・・・・」
晴れ渡ったうららかな春の日であったけれど、私達はその日から険しい道への一歩を踏み出そうとしていた・・・・・・・・・・・