未来視達の出会いと別れ
〜遥かなる者達の試し〜

 

「う・・・ん・・・・」
ここはどこ・・・?僕は・・・一体・・・
『ひょーう…ひょーう・・・どこにいるんだー・・・』
!? 父さん!?
さっき僕をかばって死んだはずじゃ・・・
『彪、早く帰ってきなさーい・・・』
母・・・さん・・・
『ほら、はやく来いよ彪!行くぞ!』
みんな・・・?
僕を置いて、どこへ行くの?
別に皆を警戒しているわけじゃない。ただ僕は昔から物事の筋道がしっかりしてないと気がすまないタイプだったからそう思っただけだ。
「みんな、待ってよ、行かないでよ!ねぇってば!どこへ、何のために行くの!?」
『来てからのお楽しみだよ・・・彪。』
優しい口調で父さんが言う。
父さんが嘘を言うとは思わないし・・・父さんは僕と違ってどちらかと言えば秘密主義なタイプだった。
「・・・わかったよ。そっちに行くから待ってて!」
僕が皆に追いつこうと走り出すと誰かが袖を引っ張った。
『行かないでくれ・・・置いて行かないでくれ・・・彪・・・』
振り返るとそこは火の海だった。幸せな村は炎に包まれて見る影もなかった。
そして今僕の袖を引っ張っているのは――
「掬(キク)!どうして・・・!?」
掬は僕の幼なじみの女の子で最近はよく行動を共にしていた。
でも今は全身にひどい火傷を負っていて、息をするのがやっとみたいだった。
『おい・・・て・・・行かないで・・・』
「掬・・・」
そうだ・・・思い出した。僕は村を軍に襲われて、焼き払われて、父さんや母さんが僕達をかばって、でも村の外まで逃げ切ったのは僕と掬だけで・・・
その掬も村の外で一息ついたときに気が緩んで・・・
―――みんな―――過ぎ去った人々―――
僕が守れなかった、たくさんの命。
『彪ー・・・』『彪ーーー・・・』
あちこちから僕を呼ぶ声がする。
―――ありがとう。掬。君のおかげで思い出す事ができたよ。本当にしなければいけない事を。―――
「父さん、母さん、掬、みんな。僕はここで立ち止まる訳にはいかないし、誰かに手を引かれる訳にも行かない。死ぬ前に母さんだって言ってたじゃないか。『生きて』って。
僕は生きる。生きて、世の中を変えて、いつかみんなや僕が夢見てた誰も苦しまずにすむ世の中にしてみせるから・・・・・」
声が止んだ。
「だから・・・ありがとう・・・そして・・・さようならみんな・・・・」
みんなの影が消えて行く。父さんも、母さんも、みんなも。
そして掬も。

僕は気が付くと、目の前の風景が潤んでいた。
消えた人影が、悲しかった。
消えて行った人たちの顔が、 悲しかった
最期の掬の笑顔が・・・哀しかった

これが・・・僕の人生で最後の涙になるように・・・・・・

 

「・・・・・まー大丈夫かな。」
「・・・・・太上老君。この者の目が覚めたらこう伝えろ。
―――「道標が滅ぶ時」 人がそう言った時、ひとりそこにはいない者がいた。
しかしその者はその時の誰よりも強かった。
名は、
申公豹―――――」
「なるほど・・・・この子は申公豹か・・・・・」

目が覚めた時僕はこの人からこの事を聞いた。
「僕が・・・最強・・・?僕は・・・申公豹?」
「そう。君は私達の「試し」を見事に乗り越えた。君は私の弟子になりうる資格がある。
―――本音言うとめんどくいさいんだけど、道士としての修行をするにあたって、君には道士名を与えなければならない。その名前が申公豹ってわけ。」
申・・・公・・・豹
僕・・・は・・・最強の道士・・・申公豹・・・
「あの・・・聞いていいですか・・・」
ZZZZZZ・・・・・
「・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・
「起きろ!!!」
自分の師匠になったばかりの人にも関わらずいきなり僕はその人を蹴り飛ばした。
「わぁっ!何だい申公豹?」
「人の質問に答えてくださいよ!」
「あーめんどくさい〜・・・・」
「・・・・・・・・」
僕の回りを殺気のオーラがとりまいている。
「なっ 何だい何が聞きたいの?」
「あなたの名前を聞いていないんですが・・・・」
「あ。」
すっかり忘れてた、と言った感じだ。
「別にいいじゃないか名前くらい・・・」
「・・・・・・・」
「わっ わかったよ!・・・・私は太上老君。人は私をそう呼ぶ―――――」
「太上老君・・・ですか・・・」

ほどなくしてまた太上老君は寝てしまったけど、その日はそれで終わった。

空は、晴れていた。

雲一つない、青空だった。

 

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