未来視達の出会いと別れ

〜妲己と申公豹〜

 

「・・・!!」
逃げ惑うヒト、意味もなく死ぬ人、ヒトを殺す炎・・・
あの日の光景が・・・何度でも・・・
そしてその中心には・・・
「さぁ〜んVvみんなこころゆくまで遊んで行ってねぇ〜んVv」
とても綺麗な女のヒトがいた。恐らく絶世の美女ってやつだと思う。
言っている事があんな事でなければ僕はきっと見取れていたに違いない。
でも今は・・・
「お前がこいつらを操っているのか!?今すぐやめさせろ!」
女のヒトは僕の声に気が付いてこっちを向いた。顔も綺麗だ。
そして甘い、いい香りを漂わせながら僕に話しかけてくる。
「あらん・・・ぼうや、わらわを止めようって言うのん?」
何だ・・・この香りは・・・
まともにかいでいたら頭がくらくらしてくる・・・
「当・・・然だ・・・!罪もない人を・・・殺そうなん・・・て・・・!」
「申公豹・・・もしかしたらこの人かなりヤバイよ!」
気が付くと黒点虎が血相を変えて警告している。
僕は視線で「どういう事?」と聞いた。
なぜなら今は自我を保っているのがやっとだったから。
本当に何なんだ・・・この香りは・・・!
「この人・・・もしかしたら金鰲島の三強の一人:妲己かもしれない!」
「だっ・・・き・・・」
僕は立つ事すら不可能になってきた。
今気を抜けば僕の自我はどこかに吹き飛んでしまう・・・!
そんな気がする。
「あっら〜んV わらわってもぉ結構有名なのねぇんVv・・・にしても・・・」
余裕の笑みを浮かべながらその女:妲己は僕の顔をながめる。
「わらわの『誘惑の術(テンプテーション)』を受けていながら五分以上自我を 保っていたのはあなたが初めてよん、ぼうやVv」
当たり前だ・・・だって僕は未来の最強の道士なのだから・・・
「く・・・そ・・・!」
太上老君に教わった事がある・・・
窮地に陥ったと思ったら我に返れ、そして心を無にせよ。
激情を洗い流して、心を無にすれば、そこに開ける道がある・・・と。
心を・・・無に・・・
不思議と、僕の右手に何か力が集まってくる。
これならいける!僕は確信した。
「妲己・・・あなたのやっている事は少し気にくわない。あなたがやめないと言 うのなら、僕が止めさせる・・・疾っ!!」
「い・じ・め・ちゃ・いやぁ〜んVvえ〜いV」
僕の攻撃が届くか届かないかくらいの時に、妲己は扇を取り出してそれを跳ね返した。
「申公豹!こっちに返ってくるよ!避けるから捕まっててね!!」
僕の返事を待たず黒点虎はこっちに跳ね返ってきた攻撃を間一髪避けた。

そしてそのままその場を離れた。
「黒点虎・・・!戻って!・・・あの人達を助けな・・・きゃ・・・」
「残念だけど、もう無理だよ。間に合わない。とりあえず今回は老子のところへ帰ろうよ。」
また守れなかった。数多の命。

今度こそは、繰り返すまい。
それが僕の生きる意味だから。

 

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