第1話 少年は甦る
人は・・・
本当の心で・・・
時として人を傷つけてしまう・・・。
桜吹雪の中、駆け抜けていく少女。
その息はかなり荒い。相当長い距離を走ってきたのだろう。
『早く行かなくちゃ・・・。』
しかしそんな事は一切気にもとめず走っていた。
ただひたすら、ある一点を求めて・・・。
『早乙女君に早く会わなきゃ!』
早乙女・・・。それが彼女が今求めている唯一のゴールだった。
彼女の名は咲春原日向。この物語の主人公である。
今、彼女は走り続けている。決して止まることなく。
それだけ『早乙女君』に対する想いが強いのだろうか・・・。
『あっ!』
ようやく気の遠くなりそうな疾走のゴールが見え始めた。
と言うか、実際に見えたのは本当のゴールではなくそれが住んでいる家が見えただけだがそれでも充分だった。
『ごっ、ごめんくださいっ!!』・・・・・・・・・・・
しかし、元気いっぱい家の中に入っていった彼女が見たものは想像を絶するものだった・・・。
*
「!」
彼女はそのショックに飛び起きた。辺りを見回すが今見えた光景は何処にも見当たらない。
代わりにいつもの教室が広がっている。
「あ・・・。またあの夢ね。」
どうやらいつもこの夢を見るらしい。まるで、何かの前兆でもあるかの様に。
そんな日向の気持ちも知らず、教師の声が教室中に響きわたる。
「えー、みなさん。前から言っていた通り今日から本校の『日和女子高』と『春日男子高』、そして共学校の『丸局(まるつぼね)高校』で開催する『3校交流授業期間』が始まります。
今日はその第1日目の1時間目!まずは自己紹介から!この「イ組」に編入される生徒のうち、まずは『丸局高』から!どうぞ!
「渚 螢です。」
「室戸 香奈です!」
「前野 美貴です。」
・
・
・
ああ、またつまらない日が始まるのね・・・。あの人がいない世の中なんて、私は興味がないのに・・・。
「続いて『春日男子高』の皆さんです!」
まだやってたの?
「鉾雅 渦殊です。」
「柊 啓介ですっ」
しかし次の瞬間!!
「キャ〜〜〜〜〜〜ッ!!!!!」
女子生徒達の黄色い声が教室全体を揺るがすほどに響きわたった。
なんなのよ・・・。もう。早乙女君を思い出しちゃうじゃない。
そう。彼もまた、小学校時代はかなり女子生徒達に人気があった。
あの日が来るまでは・・・・。
しかし、その直後。思わず涙を流しそうになった。
「皆さん、初めまして。早乙女 快喜と言います。よろしくお願いしますね。」
!!! ウソッ・・・・・
早乙女君がいる・・・。今、ここに!
もしかしてこれは夢?ううん、夢でもいい!!また早乙女君と会えた・・・・!!!
自己紹介は続いていく。しかし日向はどうしても快喜から目が離せなかった。
ずっと会いたかったから?それとも他の何かが??
あの日のままで・・・あの眼差しも、あの感じも、みんなあの日のまま容姿だけが大人っぽくなっている・・・。本当にあれは早乙女君なの?だって彼はあの日確かに死んだはずなのに・・・。それともあの人は単なる同姓同名の赤の他人・・・・・・?
「以上で自己紹介を終わります。次は座席を決定します!」
ドクン ドクン ドクン ドクン
鼓動が静まらない。早乙女君が・・・あの人が隣だったらどうしよう。
私自身はそれを望んでるはずなのに心の何処かでそれを拒んでる。。。。
席は座席抽選によるくじ引きだった。全ての生徒がくじを引き、いよいよ結果が前の黒板に掲示された。。。。。。。。。
快喜と日向の席が決まった時、一瞬二人の目があった。
ついに・・・ついになってしまった・・・・。あの人の隣に!!
両者とも即座に考えたことは同じだった。
*ここで一つ疑問がある。それはなぜ両者とも考えることが同じなのか?日向は理由が明らかだがなぜ快喜も同じ事を考えたのだろうか。その事が明らかになるのはそう先でも無さそうだが・・・。
「それではこの黒板に従って座席を移動して下さい。ただし移動の際に席を変えるのは駄目ですよ。」
途端に教室全体が騒がしくなる。
「ええっ、この人の隣にはなりたくなかったのにぃ。」
「なんでこんな生意気そうな奴の隣なんだよ。」
「早くこの席変わりてー。」
「あたし早乙女君の隣が良かったなー。」
「ちょっと、早乙女君はあたしが先に目付けたのよ!」
がやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがやがや・・・・・
その間、日向は下を向いたままだった。快喜となんとなく目を合わせたくなかったのだ。
ついに快喜が日向の席と机をつなげた時、思わずビクッとなった。緊張しているのだろうか。
「・・・どうしました?」
久しぶりの早乙女君の声。本当はとってもうれしいの・・・!
でもそれがうまく表せない・・・。
快喜もなにか気まずそうだ。まるで小学校時代の無邪気だった日向を知っているかのように。
・・・何かあったんだろうか・・・。
しかし次に二人の耳に飛び込んできた一言が、そんな雰囲気を一気に吹き飛ばした。
「なんで咲春原なんかの隣が早乙女様になるわけ?潔白の早乙女様が汚れてしまうわ!」
!・・・・・なんて事を・・・・!!!!!!
先に反応したのは快喜だった。こみ上げてくる怒りを抑えながら、怒りで震える手で拳を握りしめ、その声の主に言い放った。
「咲春原さんは・・・そんなに汚れた人なんですか・・・・?」
快喜は許せなかった。自分が一番守りたい人をここまで侮辱されることが耐えられなかった。
そう。日向は気付くはずもないが彼こそが日向が小学校時代に亡くしてしまった恋人、早乙女 快喜その人だったのだ。どうやって甦ったのかその詳細はわからないが彼自身であることには変わりはなかった。
驚いたのは日向の方だった。
え・・・?この人、今 何て? 私をかばってくれた・・?
日向は快喜の後ろ姿を見ながら思う。
小学校以来私をかばってくれる人なんていなかったのに・・・。
ましてや男の子なんて見向きもしてくれなかったのに・・。
!もしかして・・・・
もしかしたらこの人・・・
本当に本物の早乙女君だったりして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*
その頃、この学校のコンピューター室で一台だけ、画面が出ているパソコンがあった。しかも、電源が入っていないにも関わらずに・・・だ。そして、その画面には次々と文字が打ち込まれていた・・・。それもひとりでに・・・・。
その画面には、こう入力されていた。
【ZADARZAMヘノミチハヒラカレタ
.デンセツノトリオファイタータチヨ!
ゼントユウボウノイセカイノモノタチヨ!!
ワレヲモトメヨ ワレヲモトメヨ
ジダイハナンジヲマッテイル!!
ワレヲモトメヨ ワレヲモトメヨ
ソシテ・・・
ナンジノエルベキモノヲエヨ・・・
ZADARZAM / LALUWSEA / AUGANA / CHAJAN】
その画面に文字が打ち込まれていくのを、一人の警備員は飽くことなく見つめていた・・・。そして、全ての文字が打ち終わったのを見届けると、一人つぶやいた。
「ついに・・・始まったのか。最後の戦いが・・・・。」
それだけ言うとまた警備員は見回りを始めた。
謎の言葉を打ち出したコンピューターは、その後、勝手に画面を消した。
見るものを圧倒するような、妖美な光を放ちながら・・・。
その日の学校が終わり、最後に警備員が出ようとすると、校長が警備員を呼び止めた。
「ちょっと山口さん。」
「はい。何でしょう校長?」
「・・・例のパソコンの処分、いつにするかね?あの勝手に画面が出て勝手に消えると言う言語道断なパソコン・・・」
そんなパソコンはこの学校、いや、おそらくこの世界でも一台しかない。この学校のコンピューター室にあった、あのパソコンだ。
「校長、あれはいずれわたしが引き取りますから、もう少し待って下さいと、何度も言ったでしょう?」
「でもねぇ、山口さん。あのパソコン、聞く話じゃコンピューターウイルスに感染されまくっててもうほとんど使いものにならないらしいじゃあないですか。そんなパソコン、引き取ったところで何に使うんです?」
「私が処分します。」
「君に処分の仕方なんぞわかるもんかね。もう学校で決めたことだ。あのパソコンは一年以内・・・いやいや一ヶ月以内に学校で処分するぞ!誰にも文句は言わせん!!少々金がかかるがみな承諾してくれた。」
「そんな・・・!!」
落胆する「山口さん」こと、警備員を尻目に、腹黒く、かつ卑怯な校長は去っていった・・・・・。