時を超える者達
〜好敵手、再会〜

「師匠!あれを見て!」

白い虎に乗った二人のうち、下界のある一点を指差し一人が声をあげた。
青いマントに身を包む、緑の髪をなびかせた少女・・・
彼女の名は、公雷子と言った。
先の封神計画の最中、今彼女の後ろに乗っている人物が弟子にした人間である。
封神計画が終わり、特にやる事も無い今、
二人で各地を旅していたのだ。

「あれは・・・・」

声をあげた少女が呼んだ者の名は、申公豹と言った。
申公豹は少女の指差す先に見なれた姿を見つけた。
かつて自らが好敵手と位置付けた、あの人物の姿を・・・

「あれって、もしかして太公望じゃないの!?」

今度声をあげたのはどちらの人間でもない。虎だ。
この白い虎は黒点虎と言い、申公豹の霊獣である。
今は二人の良き旅の共である。
今、二人と一頭が見下ろす視線の先には、清らかな渓流があった。
そして、河縁の岩の上に腰を降ろして釣りをしている、一人の人間の姿も・・・

人間?彼は人間なのだろうか・・・?

「黒点虎、公雷子。少しここで待っていてくれませんか?」

突然の問いに公雷子は思わず戸惑った。

「なぜですか?私も行きたいです!」
「わかってあげなよ公雷子。また機会があったら会わせてもらえるよ。」

公雷子よりも申公豹との付き合いが長い黒点虎には
なぜ申公豹がそんなことを言うのか大体想像がつくようだ。

「そんなぁ・・・」

なかなか納得しない公雷子に、申公豹が彼女の両肩に手を置いて
苦笑しながら説得する。

「わかって下さい公雷子。今あなたを彼には会わせたく無いんです。
あなたがもっと強くなったら、その時は会わせてあげてもいいですから。」
「・・・・・わかりました。じゃ、私ここで待ってます。」

バッ 申公豹が黒点虎から飛び降りる。
彼らスーパー宝貝を所持する者達はその宝貝の力を借りて
空中を浮遊する事が可能なのである。
ゆっくりと浮遊しながら申公豹は「太公望」の側に着地した。

――全く。いつまで経っても変わりませんね。この人は。

外見や漂う雰囲気は初めて会った時に比べれば大いに変わっている。
今目の前にいるのは、初めて会った時の軟弱な道士ではなく、
漆黒の衣装に身を包んだ「始まりの人」:伏羲なのだ。

―――そのはずなんですがねぇ――

その当の本人が普段している事は「始まりの人」とは程遠い。
いつも渓流に糸をたらしては、ただずっとそこに座りつづけているのだ。
しかもその糸は魚を釣る事は無い。針が水についていないばかりか、
針が尖っていないのだ。

―――まったく。私にはわかりませんよ。あなたの考えている事が。

「・・・・・・釣れたようだのう・・・まずは一人目・・・」

不意に目の前の人物がしゃべりだした。
独り言ではない。明らかに誰かに向かって言っている様だ。
どうやら自分の存在に既に気付いていたらしい。

――しかし・・・「まずは」?

「なるほど。あなたはその釣り糸で「人」を釣っているわけですね。
それで今日の一人目がこの私・・・と。」

「その通りだ。今日はあと・・・もう一人釣れる。」

相変わらず目の前の人物は後ろを振り返らない。
しかし気になる。あともう一人?
もう少し伏羲に近寄ると申公豹は伏羲と同じ水面を眺めながら問いただした。

「で?そのもう一人とは誰のことなのですか。」

半ば、呆れながら。しかし、焦りながら。

――――嫌な予感が当たらなければいいですけどね―――

「おぬしも大方察しはついておろう?まさに、その人だよ。」


まさか・・・・・・!!!

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