初夏の風
〜風は過ぎ〜

「あなたは、何を考えているの?」

凛と放たれた老子の言葉。
その言葉と同時に全てが止まった様に思えた。
流れていた砂時計は、一時的にせき止められた。

しばしの沈黙の後、伏羲は不敵ににやりと笑った。

「別になにも考えておらんよ。
わしはただ、わしのやりたいことをやりたいようにやっておるだけだ。」

伏羲の言葉に同調する様に、止まっていた時が再び流れ出す。
風はそよぎ、雲は流れ、
日は輝き、木々は茂る。

「そう言う点では、女ka とさほど変わらないのかも知れんな。」
「腐っても同胞・・・そういうことかい?」
「おぬし・・・・・・ι」

老子に痛い所を突っ込まれて、返す言葉を失う。

「ま・いいや。あなたがなにも考えていないのなら、それはそれで。
私はただ、あなたを動かす思いを聞いてみたかっただけだから。」

そう言って老子は目を閉じ、中に浮かんで横になった。

「もう起きていいよ。そろそろ眠くなっちゃった・・・」

「おぬし!!」

最後の言葉も言い終わらぬうちに、安らかな寝息が聞こえていたらしい・・・

 

 

現実世界。羊の群れの中で寝ている二人。
しばらくすると、やがて一人がむくむくと起き出した。

「むぅ・・・よく寝たのう・・・」

ふあぁと大きなあくびをしながら、まだ隣りで寝ている老子を見る。
いつの間にかちゃっかり怠惰スーツに身を包み、完全な眠りの境地にいることは火を見るより明らかだった。
次に起きるのは、何年後か。

「『わしが何を考えているかわからん』・・・・か。わしの方が聞きたいぞ老子よ・・・」

居心地のいい桃源郷からこのまま去るのもなんなので、しばらくそこにいると、
遥か上空の方から声が聞こえる。

「ご主じーん!どこッスかー!!」

「おっしょーさまー!!」

「・・・・・・さぁて。今日は誰に会えるかのう!」

かつての同胞達をからかう(笑)ために、ふわりと宙に浮くと、空高く飛び立って行った・・・

 

風は呼ぶ 世の人を

人待つ人に 喜びを

待たざる人に 誘いを

風に委ねる 世の人は

世捨て人は 吹かれ行く

捨てざる人に 導きを

風は吹く 世の人に

太古の人に 安らぎを

今生く人に 安らぎを

風は過ぐ 世の人から

全ての人に 喜びを

生き行く全てに 安らぎを

 

変わらぬ流れに乗せながら

初夏の風は 吹かれ行く

希望の風は 吹かれ行く―――

 

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