| 初夏の風 〜風は過ぎ〜 |
「あなたは、何を考えているの?」
凛と放たれた老子の言葉。
その言葉と同時に全てが止まった様に思えた。
流れていた砂時計は、一時的にせき止められた。
しばしの沈黙の後、伏羲は不敵ににやりと笑った。
「別になにも考えておらんよ。
わしはただ、わしのやりたいことをやりたいようにやっておるだけだ。」
伏羲の言葉に同調する様に、止まっていた時が再び流れ出す。
風はそよぎ、雲は流れ、
日は輝き、木々は茂る。
「そう言う点では、女
とさほど変わらないのかも知れんな。」
「腐っても同胞・・・そういうことかい?」
「おぬし・・・・・・ι」
老子に痛い所を突っ込まれて、返す言葉を失う。
「ま・いいや。あなたがなにも考えていないのなら、それはそれで。
私はただ、あなたを動かす思いを聞いてみたかっただけだから。」
そう言って老子は目を閉じ、中に浮かんで横になった。
「もう起きていいよ。そろそろ眠くなっちゃった・・・」
「おぬし!!」
最後の言葉も言い終わらぬうちに、安らかな寝息が聞こえていたらしい・・・
*
現実世界。羊の群れの中で寝ている二人。
しばらくすると、やがて一人がむくむくと起き出した。
「むぅ・・・よく寝たのう・・・」
ふあぁと大きなあくびをしながら、まだ隣りで寝ている老子を見る。
いつの間にかちゃっかり怠惰スーツに身を包み、完全な眠りの境地にいることは火を見るより明らかだった。
次に起きるのは、何年後か。
「『わしが何を考えているかわからん』・・・・か。わしの方が聞きたいぞ老子よ・・・」
居心地のいい桃源郷からこのまま去るのもなんなので、しばらくそこにいると、
遥か上空の方から声が聞こえる。
「ご主じーん!どこッスかー!!」
「おっしょーさまー!!」
「・・・・・・さぁて。今日は誰に会えるかのう!」
かつての同胞達をからかう(笑)ために、ふわりと宙に浮くと、空高く飛び立って行った・・・
風は呼ぶ 世の人を
人待つ人に 喜びを
待たざる人に 誘いを
風に委ねる 世の人は
世捨て人は 吹かれ行く
捨てざる人に 導きを
風は吹く 世の人に
太古の人に 安らぎを
今生く人に 安らぎを
風は過ぐ 世の人から
全ての人に 喜びを
生き行く全てに 安らぎを
変わらぬ流れに乗せながら
初夏の風は 吹かれ行く
希望の風は 吹かれ行く―――