この命尽きるとも 〜決意〜 |
「金光聖母!いつまでそこにいる・・・覚悟しろ!!」
「フッ 言われずとも、お前達の相手はしてやる。
思っていたよりやるようではないか。」
金光聖母は、こういうやつだ。
例え相手が敵であっても、実力さえあれば認める。
それが彼女の持つ「余裕」であった。
「だがいい気になるなよ・・・!四肢酥圏!!」
ブゥン!! 大きく宙で弧を描いた輪は幼い雷震子を後ろから直撃した。
「うわあああっ!!」
「雷震子!!」
衝撃で雷震子が地上に落ちる。ひどく苦しそうだ。
「おい!大丈夫か!?」
「ちからがぬけてくよぉ・・・」
手許に戻った四肢酥圏を、すぐに投げてきた。今度はをめがけて。
「次はお前だ!」
「させるかよ!!乾坤圏!!」
二つの輪が空中で相殺する。互いに自分の輪を受け取った後、
金光聖母がを見下ろす。
「私の四肢酥圏と互角とはな・・・なかなかやるようだな。」
「うるせえ!よくも雷震子を・・・!乾坤圏!!」
「同じ手は食わない!!」
の攻撃をひらりとかわすと、弓の機会を伺っていた天祥の背後に舞い降りる。
「しまった!!」
「遅い!!雷神剣!!」
「うわぁっ!!」
天祥の弓は強力だが、武器が武器なだけに近距離攻撃にはとても弱い。
背後からの彼女の攻撃をよけることはできなかった。
「天祥!!おのれ貴様・・・!!くらえ玄武槍!!」
金光聖母はその身のこなしの軽さで黄飛虎の一撃必殺である槍をもよけたが、
後ろに迫っていた天化に気付かなかった。
「親父の攻撃をよけたくらいでいい気になるな!朱雀剣!!」
「がっ・・・貴様・・・おのれ!!」
「くらえ!打神鞭!!」
「させるか!四肢酥圏!!」
(・・・・・・・)
気力の回復のため、一時的に前線から退避していた公明は
一人でも太公望達に立ち向かう金光聖母の堂々たる姿を見ていた。
彼女は強い。だからこそ太公望達も一人では立ち向かえない。
逆に、相手が例え強くても、仲間がいれば立ち向かえるということも。
・・・・かつて、太公望と敵対した頃の自分の姿を、そこに重ねる。
やはり彼女と同じ様に、例え周りを囲まれたとしても、
太公望達に立ち向かっていた。
(・・・・・・どうやら、あんたの影響完全に受けちまったみたいだぜ。)
そして、前線に復帰すべくその場から飛んだ。
一方では、徐々に押されつつある金光聖母の姿があった。
「くっ・・・」
「ちくしょ・・・しぶといなこいつ・・・」
「一聖九君の長だからな・・・一筋縄ではいかないはずだ。」
互いに体力の削り合いを続けた結果、どちらも次の一撃が最後になるであろう所まできていた。
「僕達は・・・勝つんだ!!」
「待ってくれ太公望。・・・俺にやらせてくれねえか。」
「趙公明殿・・・」
決意の表情で、趙公明が戦線に復帰してきた。
「お前らもう全員息あがってんだろ。・・・後は俺に任せな。」
辺りを見まわして趙公明が言う。
「そうだな・・・かたじけない趙公明殿。」
「じょ・・・冗談じゃねえぞ!オレはまだ行け・・・」
「ホラも。・・・後はお任せします。」
一人、天化だけが違う反応を見せた。
「・・・・決着(ケリ)、つけんのか。」
「・・・・ああ。手は出さねえでくれ。」
「言われないでも、もうこっちにはその体力も残ってないんだ。安心しろ。」
そう言って天化も引いた。
「趙公明か・・・こうしてまみえるのは・・・久しぶりだな。」
「あんたこそ。随分とみじめな様になっちまったな。」
確かに。黄金の衣装は見た目こそ傷つけられてみじめな姿になってしまったが。
だが、その心の「黄金」はほんのわずかも曇ってはいない。
「フ・・・誰のせいだと思っている。」
「まっ そうだけどな。」
金光聖母はふいに宙を見上げたあと、静かに言った。
「あれから何年経ったのか・・・お前は、いい仲間を得た様だな。」
「お陰様でな。毎日面白おかしくやらせてもらってるぜ。」
「・・・だろうな。お前の釘頭呪から・・・術者の「闇」が消えた。
・・・お前はこれからも、その「道」をまっすぐに進み続けるのか。」
「当たり前だろ?それはあんたが俺に教えてくれた事だ。
『自分の信じた事に命をかける覚悟で生きてみろ!』ってな。」
互いに細く笑い合った後、金光聖母は趙公明に目を向けた。
それは「師」が「弟子」に向かってする、愛情のある笑みだった。
「・・・そうか。そうだったな。
ならば、これからもその道は決して曲げるなよ。どんなことがあろうともな。」
「ああ!」
「・・・・・さらばだ。」
金光聖母は前に進み出ると、後方に引いていた太公望を見下ろして高らかに言った。
それは、まるで敗者とは思わせない堂々とした態度で。
「太公望よ!私を封神するのならばするがいい!
そしてお前達の言う「仙道のいない世界」とやら・・・作ってみせるがいい!!
だが私は・・・お前達の手にはかからない!!・・・・・三昧神火!!」
短く呪文を詠唱すると、紅蓮の炎が金光聖母を包み込んだ。
誇り高き情熱の仙人の魂は、やがて太公望によって封神台に導かれた。
(絶対に・・・・曲げねえ・・・)
彼女の封神を見ながら、趙公明は心に改めて固く誓った。
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