キミを呼ぶ指笛

 

―――あれから・・・わたしはずっと、指笛を吹いてるよ。
キミが融けていった空に。キミがやってきた海に。
毎日、毎日吹いてるんだよ。
いつかキミが帰って来た時に、迷わずここへ来れるように。
「わたしはここだよ」って教えてあげられる様に―――

今日もまた、キミがやって来たビサイドの浜辺から
彼方の水平線に向かって指笛を吹いていたんだ。
でも、今日は違うの。今日は特別、なんだ。
今日は何だかいつもと違う感じがするんだよね。何て言えばいいのかな・・・
確かにいつもキミが帰ってくると思って吹いているけれど、
今日は、それがもっと確かなものになったような気がするんだ。
なぜかは、わからないけれど・・・確かにキミを感じたような気がした。
遥か、水平線の彼方に・・・

だからね、今日はいつもよりもがんばって大きな音で吹いてるんだよ。
そしたら、ワッカさんやリュックがびっくりして、しきりに私の顔をながめてくるの。
「どうしたユウナ!?なんか今日はいつもに増して音でかいじゃねえか!!」
「ユウナん、何かあったの?」
それでわたし、二人に微笑み返して、言ったの。
「えへへ。ちょっとね。・・・今日は何だかうれしいんだ!」
今日はきっと、何かがある。だからわたしはそれを信じてみようと思う。
ほんのわずかな希望に、かけてみようと思う。

ティーダ。
今日はキミに・・・会えるかもしれない。

キミが帰ってきたら何を言おう、何をしようって考える度に
とても楽しくなるんだ。
だから今日は、随分長い間指笛を吹いていたけど、全然疲れなかった。
指笛を吹いているうちに、だんだん確信してきたんだ。
「キミが帰って来るかもしれない」じゃなくて、「キミは帰って来るんだ」って。
そう信じて、今日は指笛を吹いていた。

夕方。太陽がだんだん沈んで行く。
ビサイドの海に、まばゆい光を放ちながら。
・・・・お願い。まだ沈まないで。ティーダが帰って来れなくなるよ!
朝や昼の頃は元気に鳴っていた指笛も、
辺りが夕闇に染まるに従って、だんだん元気が無くなって行った。
それが自分でもわかった。

―――辺りが暗くなったら、キミは帰ってくれなくなっちゃう。
いくらわたしが指笛を吹いたって、暗かったらキミの顔も見れないよ・・・
だからお願い。まだ沈まないで―――

ビサイドの西の海に沈む太陽の、最後の一点が消えるその瞬間まで、
わたしは諦めなかった。
だって今日は・・・・特別な日なんだから。
・・・・特別な・・・・・日なのに・・・・・・
ついに太陽は、その輝きを海の下に沈めてしまった。
「そんな・・・・・・」
・・・まだ、諦めたくない・・・!
気持ちは高まるけれど、どうすることもできない現実が、そこにあった。
それはいつものことだったのに。今日は何だかとても悔しくて。
あの時、エボン=ジュを倒した直後、キミが消え始めた時程ではないけれど。
悔しいけど、どうにもできなくて。

それまで指笛を鳴らしていた手を下ろして、沈んで行った太陽の方向を眺めていた。

でも、何で今日は特別な感じがしたんだろう・・・
寝るまでの間、食事の間もずっと気になって仕方がなかった。
キミに会えた訳でもなかった。何か特別なことがあったわけでもなかった。
今日は、本当にごく普通の1日だったのに。

「じゃあね。お休み、ユウナ」
「うん。お休みルールー」
・・・・・自分の寝室に一人になって、それでもやっぱり考えてた。
何でなんだろう。どういうことなんだろうって。
考えているうちに・・・ふいに歌が聞こえてきた。
―――この歌・・・・祈りの歌?
誰の声だろう・・・わたしが祈ったどの祈り子様の声でもない。
この歌声・・・まるで、海のさざなみを思い浮かべさせるような・・・―――

やがてその声は、まぎれもない現実のものとなって聞こえてきた。
誰かが、外で歌っている。それも、そばで・・・!
思いきって起き上がると、そこは今までいたところとは全くの別世界だった。
太陽がまだ高いところにある、ビサイドの浜辺。
―――わたし・・・・?
祈りの歌は続いている。途切れることなく。
誰かが、すぐ、側で歌っているんだ。
この聞き覚えのある声・・・・この声、もしかして!!
声のする方に向き直ってみると、そこにいたのは、紛れもない少年の姿。

「ティーダ!」
思わず叫んだ。今までずっと探し続けたその姿。
太陽に輝く金の髪に、ちょっぴり焼けた肌。
そして振り返ったその顔にある海の様に青い瞳・・・
「指笛、ずっと吹いてたんだろ?聞こえてた。」
「ティーダ・・・っ」
今度こそは、消えないよね?キミは、真実になったんだよね?
もう、どこにも行かないよね・・・?
懐かしさと、不安とが抑え切れなくなって、思わずキミに駆け出した。
そしてキミは・・・しっかりと受け止めてくれた。その腕で、わたしを抱き止めてくれた。
あの時飛空挺でキミに駆け出したわたしを抱きとめようとした時のキミは、
通り抜けてしまったけれど。
今ここにいるキミは、そうじゃない。
キミは真実になれたんだよね。そうだよね?
・・・泣かないって決めたのに。また泣いてしまった。
やっぱり不安は隠し切れなくて。
「ユウナ・・・」
キミは、わたしを強く、強く抱きしめてくれたね。
不安も何もかも、吹き飛んでしまいそうなくらい。
すごく嬉しかったよ。

そしてキミはわたしから離れた後、静かに言ったよね。
「オレ・・・あの後、考えたんだ。」
「え?」
「ほら、オレが飛空挺から飛び降りた時!
・・・・・・あの時さ、ホントは・・・・はっきり言って、つらかった。
―――エボン=ジュ倒す前に自分で「消える」って宣言したくせにさ。
覚悟はできてた筈なのにいざその時になったら・・・
自分が「消える」ってのが・・・怖くてさ。」
「多分・・・わたしもそうだと思う。」
振り返ったキミにわたしは言った。
「きっと、わたしもあの時、究極召喚を得て自分が死ぬ時になったら・・・
多分、おなじこと考えたと思う。
小さい時から覚悟してたのに、やっぱり想像すると・・・怖いよ。」
それは・・・キミと出逢ってしまったから。
キミと別れる時のこと想像すると、怖くなっちゃったんだ。
キミと別れたくない、ほんの一瞬でも長く一緒にいたい一心で。

「それで、オレはその後確かに消えたと思った。
最後にブラスカさんと、アーロンと、親父が見えて・・・一旦意識が切れた。
次に目を覚ましたのは・・・「ここ」だった。」
「ここって・・・ビサイドの海だよね?」
・・・・しばらくの間、沈黙が続いた。何でキミが黙ってしまったのかはわからないけれど。
「・・・よくわかんないッス!」
「え?」
「多分・・・「夢」、じゃないかな。ここ。」
じゃあ・・・やっぱりキミは・・・
沈んでしまったわたしに気付いて、キミは元気良く言ってくれたね。
「大丈夫だって!ここからでも、ユウナの指笛はいつも聞こえてる。
いつか絶対、辿りついてみせるッス!」
「・・・絶対っすよ」
「ああ!あ、そうだ。ユウナ見つけたらオレ、指笛吹くから!」
「うん!じゃあ、わたし・・・待ってるね。キミの事。」
キミは微笑んで、わたしに背を向けて歩き出した。海に向かって。
それはあの時、飛空挺から空に歩き出したキミの後ろ姿に重なってしまったけれど。
でも、今回は違う。今回は・・・キミは必ず帰って来る。
わたしのところに、必ず。
海に入る直前、キミはわたしに親指を立てたね。「大丈夫だ」って。
そしてそのまま、海に潜っていった・・・

ほんのわずかの間だったけれど、キミに会えて良かった。

わたしの頬を、温かいものが流れ落ちた。

キミの後ろ姿、いつまでも見送っていたよ。

「大分潜れるようになったな。」
「ワッカさんのお陰です。」
今日もわたしは、指笛の練習と潜る練習をしているよ。
いつの日か、キミの指笛が聞こえる日を信じて。
わたしを呼ぶ指笛が聞こえた日に、少しでも早くキミの所へ行けるように。

キミの事、ずっと、待ち続けるよ。

 

「異世界遊戯発信局」の高崎様に捧げた一本。
FF10小説、待望の(?)二本目です

アルティマニアオメガの「キミを呼ぶ指笛」に多大な影響を受けましたです。
ユウナの一人称なのもそのせい・・・切ないってば切ないですよあの話は。
「永遠のナギ節」がスクウェアの後日談なら、これは浪老子の後日談です。
・・・・・・単にあのDVD持ってないから、知らないだけというツッコミはナシ(笑)。
やっぱ私的にはあの二人はハッピーエンドであってほしいんですが、
あんまりすぐにくっついちゃうのも面白くないんで。(ひでぇ)
ユウナちゃんにはもうちょっと待っててもらいます。
・・・・・って、もしかしてこうするとその時の話も書かなきゃならないわけで。

・・・・・・い、いつか、きっと、ね・・・・・(滝汗)

 

BGMは・・・祈りの歌で。
出だしはティーダのハミング。ラストはユウナのハミングで。
あとは「素敵だね(
ガガゼト山Ver.・・・って誰もわからんか・・・)」ぐらいでいいかな。

 

 

 

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