| 願い |
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「くっ・・・!」 ギィン! うなる双刀をかろうじて顔すれすれで受け止める。 「う・・・・っ あぁ!!」 しかし不自然な体勢で防御した、その直後に発動した術には対応できず、
やっと・・・違う運命に来たと思ったのに・・・! *
望美はただ一人彼に・・・知盛に生きて欲しい為だけに 「俺がお前に未練が生じる前に・・・・ 以前会った時、彼は教えてくれた。 だからもしかしたら・・・・ ――怨霊は、存在そのものが哀しい存在だと、わかっているのに――
その時だった。 「なっ 何!?」 弁慶が険しい表情のまま周囲に気を配っていると、 「な・・・!?海の、中から!?」 言っている間にも、怨霊はますますその数を増し、 「まずいですね・・・これでは、この後壇ノ浦で死ぬ者は これ以上誰も死なせるわけにはいかない、 「うっ うわああっ!!」 「・・・・もう始まってしまいましたね・・・・」 たまりかねた九郎が大声で指令の声を出す。 「しかし九郎殿!!貴方がたは・・・!!」 今更退却命令を出したところで、 「――最良の策を取りましたね。九郎。 悔しがる九郎を他所に、船は速度を上げながら最後の砦、彦島へと向かう。
*
何とか道を切り開き、彦島までたどり着いた一行。 「神子、私から離れないで。・・・・・とても強い陰の気だ。」 白龍に言われずとも、その場にいるだけで息苦しさを覚えるほどの空気だ。 清盛・・・・今まで、平家の人達を、身内を、 も し か し た ら あ の ひ と も 。 不安と同時に見え隠れするのは、わずかな期待。 ――そして、 ついに最後の決戦のときが来た。 きらびやかな衣装に身を纏った赤毛の子供――平清盛が姿を現した。 「よくぞここまで来たな源氏の神子。 いつもの運命なら、彼はこの後 ・・・・・・が。 「だが、その強運もここまでよ。そなたは我には勝てぬ。 清盛の高笑いとともに、その隣りに陰の気が集まり始める。 ・・・・かなりの濃度。 「なっ なんだこれは・・・・!」 流石の九郎もわずかにたじろぐ。 「・・・・こやつも妙に強情でな・・・・
怨霊化を・・・頑なに拒んだ・・・!? ――俺がお前に未練が生じる前に・・・・―― 未練が生じれば、怨霊になる。
・・・・本当に・・・・本当に。 ・・・・・「彼」だったなら・・・・ やがて膨れ上がった陰の気の塊がはじけ、 俯いたままのその人影は、一歩、また一歩と踏み出して清盛に並ぶと、 「知・・・・・・盛・・・・・・!!」 「・・・・・・・・・・・・・」 違える筈もない銀の髪に、目元の雲模様。 「知盛・・・・・まさ、か・・・・・!?」 せっかく彼に会えたと言うのに、今この胸を占めるのは不安だけ。
本当に、未練が残ってしまったのか。 本当に・・・・・自分の、せいで――
「・・・・・・・・・・・・」 そして、彼はこちらを見つめたまま、沈黙を返すだけ。 「(知盛・・・?)」 明らかに様子がおかしかった。 「さあ知盛、そなたはそなたの望み通り、その神子と戦うがいい。 言うが早いか、清盛は黒龍の逆鱗をかざし、 「うあああ!!」 神子がいない状態で術が使えない彼らは、清盛に苦戦を強いられた。 「「・・・・・・・・・・・」」 相変わらず、沈黙のままだった。 彼の瞳が、望美を捉えて放さない。 「(どうして・・・そんな顔をするの・・・?)」 不安に瞳を揺らしながら知盛を見つめる。 「クッ・・・・できれば怨霊としてでなく、 自嘲気味に笑うと、ゆっくりと双刀を構える。 「・・・・まあ、いいさ・・・・・
* そして、事は今に至る。 「・・・・どうした・・・? 口調は、あの時のままだった。 再び、攻撃を仕掛けようと知盛が近づいてくる。 どうしろって、言うのよ・・・・ また、戦えばいいの? 私は、何のためにこの運命を―――!! 「――っあぁっ!!」 右からの攻撃を何とか受け止めたものの、 「――どうしたんだ。この程度じゃ、俺は満足できないぜ・・・? 倒れた望美を静かに見下ろしながら、淡々と口にする知盛。
「―――どうしてよ・・・・」 「?」
うつ伏せに倒れたままの望美から漏れたのは、 「どうして・・・・っ どうして蘇っちゃったのよ知盛!!!」 もう、どうしていいかわからない。 赤間関で波間に消えた貴方を悲しみ、 望まずに与えられたその偽りの生の中で、 ・・・・本当に、「楽しんで」いるの・・・・? 「・・・・・『どうして』・・・・・か。 そう呟くように吐き捨てた彼の、その語尾の持つ響きに何かを感じた。 「先程父上も仰っただろう。 「そんな事じゃない!どうして怨霊に・・・・っ あの時「満ち足りた」って言ってたくせに――!! よろよろと起き上がりながら船べりにもたれかかる 「・・・・それは俺が聞きたいぜ源氏の神子・・・・」 やはり辛辣な瞳で向けられるのは、憎悪にも近い激しい感情。 「あの時俺は確かにお前に負けた・・・・ なのに、と、彼は続けた。 「あのまま死ねれば俺はこんな事には・・・ チャキ・・・と鍔音が鳴った方向へ目をやると、 「・・・・・何故俺を引き止めた源氏の神子・・・・!」 ・・・・ああ、そういう事なんだ あの時の台詞は。
「・・・・・生きて欲しかったから・・・・」 例えそうだったとしても。 ただそれしか、理由は無い。 「あなたの言う『見るべきもの』の意味なんてわからないけど・・・
今までの運命で、何度も救えなかった貴方。 しばらくの間の後、軽いため息の後に紡がれた 「知・・・・盛・・・・」 「・・・・獣のように強かで・・・・ 苦笑して、刀を引きながら望美と視線を合わせるように 「―――・・・・・・ッ!」 突如、伸ばしかけた腕を引き、頭痛がするのか額を押さえながら 「知盛!?」 「・・・・・く・・・・っ・・・・・! 少しずつ荒くなっていく知盛の呼吸。 「知盛!!勾玉は無いの!?」 「有ったところで・・・・っ 惟盛。敦盛。経正。 「知盛・・・・・!」 この人までが、狂ってしまう。 「・・・・・クッ・・・・そんな、顔を・・・・するな・・・・・っ そして彼は、望美が予想した最も言って欲しくない言葉を、 既に満身創痍の八葉達と、 「次の一撃が止めとなろうか・・・・ そこまで言って、清盛は知盛と神子の方向を見て絶句した。 「知盛!!待っておれ、今父が助けてやるぞ!!」 言うが早いか、清盛は黒龍の逆鱗をかざすと、 「神子!!危ない、避けて――!!」 波動は一直線に神子の元へ向かっていき、そして――
「そんな・・・・・!」 彼の事を思うなら、封印してあげるべきかも知れない。 「・・・・・何を、躊躇う必要がある・・・・っ?」 あなたを失いたくない。 「・・・・・あなたを、本能のままに暴れる怨霊なんかにはさせない。」 封印なんか、しない。 敦盛さんがそうだったように、 決意を固めると、時折呻き声を上げながらこちらを見ている知盛に 「源氏の・・・・・神子・・・・・?」 「神子!!危ない、避けて――!!」 呻き声の間の知盛の台詞に覆いかぶさるように届いたのは 無理だ、避けられない、と即座に実感した。 ・・・・・これから、彼を救わねばならないのに。救いたいのに。 ――こんなところで、死ぬわけには・・・・いかないのに・・・・
「お前を殺していいのは、俺だけのはずだぜ――」
もう二度と聞くことが無いと思っていた、この世での人の声。 驚いて目を開けると、望美に当たる筈だった黒い波動は 「知・・・・・盛・・・・まさか・・・・・!」 「望まずに得た怨霊の力だが・・・まさかこんな形で役に立つとはな・・・・」 何と、その刀で波動の軌道を反らしたらしい。
「知盛・・・・そなた・・・その娘を庇うのか・・・?」 驚愕の表情で問いかけるのは清盛。 「・・・・・さぁ・・・どうでしょうか・・・・・」 清盛の問いに、曖昧な返事を返す知盛。 「そなたまで、この我の元を去るのか・・・・・? 「・・・・・兄上と同じだとは思いませんが・・・・」 「何・・・!?知盛!!何をする気だ!?」 放たれた金気は清盛の体に纏わりつき、彼を束縛する。 「――源氏の神子」 清盛の問いには答えず、彼は望美を呼ぶ。
「・・・・・今度こそやれ。お前の手で。」
いつも戦闘中に見せる、あの挑発的な瞳で。
・・・・ただ違うのは、その刀が 今この時は、私の為に抜かれているということ。
「知盛・・・まさか、我を・・・・」 「・・・・父上・・・・永過ぎる余興は、却って興ざめだとは思いませんか」 「何を・・・馬鹿な、馬鹿な・・・!放せ、知盛!!」 「宴はもう終わりましたよ・・・・
その瞬間私に向けられた彼の表情は、 ・・・・・・生きて欲しいのに。 「―――めぐれ、天の声」 ・・・・・・・・傍にいたいのに。 「―――響け、地の声」 ・・・・・なぜ、私は紡いでしまうのだろう・・・・・・ 「―――かのものを・・・・・・・」
「・・・・・じゃあな、源氏の神子。
この、言葉を――― 「・・・・・・・・封ぜよ!!!」
―――その瞬間、辺りがまばゆい光に包まれて。
次第に薄れゆく光を、ただ呆然と見つめるしかなかった。 今度こそ、跡形も無く消えてしまった。 自分でもわからないうちに、封印の言霊を紡いでいた。
ねえ、どうして私をかばったの? あの時感じたあなたの心は・・・・何だったの・・・?
彼が死ぬ間際に讃えた空に、彼が消えた海に問うても、
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過去最大級の長さでお送りしましたチモリ小説、いかがでしたでしょうか。(ぇ)
実はこの作品いつの間にか私のチモリ語りになってしまいましたーー;
ゲーム中敦盛ルートでの敦盛への接し方や、
薄月夜聞いて確信したんですよね。
(「不死の一族」という辺りに嫌味が込められていて。)
彼自身も怨霊として蘇ることは反対だと思うんですよ。
ただ自分から波風起こすのは面倒なので重盛みたく反抗したりはしないだけで。
普段はだらだらしてるみたいですが、その辺は強い意志持ってそうです。
・・・個人的見解ですが、最期に「海に」身を投げたのは遙か3チモリの場合、
清盛に遺体を見つけられないようにする為かなーとか思ったりするんです。
(誰かのルートで「死体が見つからないと困るような事情でもあるのか?」と
聞かれているシーンがあった筈)
怨霊として蘇った者が最終的にどうなるか、嫌というほど見てきているはずですからね。
そうはなりたくないから、ならない為にはどうすればいいか。
・・・・満足して、未練を残さずに死ねればいい。
・・・・という結論に至り、それを戦の中に見出した彼は、
自分を満足させてくれる相手を探していた、その相手が神子だった・・・・とか。
・・・・いやー私ってば相当チモリ好きだわこりゃ・・・^^;
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