| 銀の太刀 〜紅の銀〜 |
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「・・・・油は十分にまいたよ」 短く呪を詠唱して銃を発砲すると、辺りは見る間に火の海になっていく。 「・・・・これで、良かったんだよね・・・・」 景時が不安げに火の海を見つめる。 「とりあえずは、ね。でもほんの一時の時間稼ぎにしかならないから、 叔父と共に部屋を去りながら、背中越しにヒノエが景時に声をかける。 「それも・・・・そうだね。」 何かが気にかかるのか、ちらちらと部屋の方を見ながらも、
望美が高館まで戻ってきたのは、その数刻後だった。
「・・・・あっ!! もう火があんなに・・・!!」 わずかにたじろいだものの、やはり確認せねばならなかった。 火ができるだけ少ないところを選んで、望美は邸の中へ突入する。
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「む?あれは何だ?」 高館まであと一歩のところまで迫っていた軍勢の一人が、 「あれは・・・・邸が燃えているのか!?」 「待て。」 はやる兵士達を制止する、軍勢の長らしき人物。 「お前達は邸を取り囲んで待機していろ。・・・・私が邸の中を確認してくる。」 なおも抗議しようとした兵士達だったが、 「―――承知いたしました。銀様・・・・・」 そして静かに馬を進める馬上の男―――銀は何も言わず、
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熱い。 熱い。 熱い。
何も考えられなくなりそうなほどに、 熱い。
「ねえ・・・・・どこ・・・・・・?」
退路などとうに無くなってしまった。
―――私、何しに戻ってきたの・・・・? 高館にある、何かを確認するため・・・・ ―――何かって、何・・・・? わからない。 ―――どこにあるの・・・? わからない。 ―――でも、このまま引き上げるのは・・・・いや・・・・・
辺りの温度で朦朧とし始めた意識を何とか手繰り寄せて、 探しているのは・・・・・ ―――これじゃない、 これでもない、 ―――あれでもない・・・・・
違う、こんな小さなものではない、もっと、大きくて、大切な―――
「やはり、戻ってこられたのですね・・・・・」
後ろからかけられた声に、朦朧としていた意識が一挙に醒める。 「しろ、がね、さ・・・・・・」 安堵のあまり気が抜けたのか、その場へへたり込んでしまう望美。 「良かっ、た・・・・あなたに、会えて・・・・・」 そう告げる彼の瞳はどこまでも冷ややかで。 「・・・・わからない・・・・・けど・・・・」
「この高館に、大切なものを置き忘れてきた気がしたから・・・・・」
それが正確には何なのか、未だにわからないけれど。
「私がなぜあなたに忠告したか、 望美は苦笑いすると、銀に手を差し伸べる。 「・・・・?」 そう言った望美の目はひどく寂しそうで。 「・・・・・それはできません。」 不安に揺れる望美の瞳を見据えながら、銀は絶望の言葉を紡ぐ。
「私達が、あなたを追う立場だからですよ。神子様。」
意味が、わからない。 「今邸を囲んでいるのは源氏軍ではないのはご存知ですか。」 混乱していく頭をどうにか整理をつかようとする。 「―――お察しの通りです。
今更、どこに逃げ場なんてあるのか。 ・・・・銀を、敵に回して。
「じゃあ、銀、さんは・・・・・助けに来てくれたわけじゃ、ないですよね・・・・」 急に哀しくなって、寂しくて、涙で視界が滲んでくる。 ―――もう、どこにも逃げる場所なんて無い。 私はここで、終わりなんだ―――
みんなの傍を離れなければ良かったかな? この期に及んでそんなどうでもいい思考が働く。
―――でも、これでよかったかもしれない。 彼の手で最期を迎えられるなら・・・・・・・
「ねえ、最期に教えて・・・・・」 涙に声を震わせながら、望美は告げる。 「あなたは・・・・・・本当に知盛なの・・・・?」
返答を静かに待つ。その間にも火は徐々に二人のいる場所へ迫ってくる。 何よりふいに銀を見上げる望美の涙に濡れた瞳は・・・
やがて彼が根負けしたのか、ややうつむくと望美に確認するように言った。 「・・・・再度お尋ねしますが・・・・何のために、ここへ?」 望美は思わずはっとする。 銀と話していて気がつかなかったが、 「・・・・・きっと、あなただよ」 そうとしか、考えられない。
「あなたに会いたくて、戻ってきたんだよ・・・・・知盛。」
泣き顔なのに、ひどく幸せそうな顔をして彼女は言う。
気がつけば、いつかの夜のように望美は彼の腕に包まれていた。 「・・・・・やはり、同類だな・・・・」 耳元で低く呟かれるのは、ずっとずっと聞きたかった愛しい声。 「・・・・・ずっと・・・・・・お前に・・・・会いたかったぜ・・・・・」 これまでで一番艶のある声でささやかれる。
しかし、容赦なく迫ってくる炎と、騒がしくなってくる邸を囲む兵士達が、 「・・・・・・久しぶりの逢瀬もここまでか・・・・」 名残惜しそうに腕を放すと、望美の頬に手を添え、一瞬その唇を奪う。 「――・・・・!?!?」 「ち、違うわよ!!!」と全力で否定しつつ、再度銀――知盛を見やる。 「・・・・・やっぱり一緒には行けない・・・・?」 燃え落ちたどこかの木が崩れる音で 「え、ちょ、知盛・・・!?」 燃えさかる邸の中を早足で移動していくと、 「・・・・・最期に戦う相手がお前じゃないのはひどく残念だが・・・・」 「・・・・神子、お前の仲間はここからどれくらいのところにいる。」 クッ、といつものように喉を鳴らすと、ふいにこちらに笑顔を向けてくる。 ―――遠い西の果てで見た時と同じ、 嘲笑の混じった笑顔で・・・ しかしすぐにその表情を消すと、前を見据えたまま彼は言う。 「この角を越えたら邸を囲んでいる兵士に見つかる。 ―――何をする気なの?知盛・・・・・ 「それは好都合だ―――行け。」 「いたぞー!!銀様と白龍の神子だーー!!!」 うっかり出してしまった大きめの声が、傍にいた兵士に聞こえてしまった。 「・・・・・面倒なことしやがって・・・・とっとと行け。 きっぱりと言い切りつつ、双刀を鞘から抜き放つ。 「嫌だよ、絶対に嫌―――」 集まり始める兵士を前に、望美の耳にまた囁く。 「何が起こっても・・・・躊躇わずに進め、と。」 それがお前のいい所でもあるのだから、と。 囁かれた彼の言葉は残酷なまでに彼女の体を支配する。
―――ずるいよ。 ―――こんな時に、そんなこと言わないでよ・・・・・・!
兵士が集まりきる前に、ついに望美は走り出す。
やはり、あの日と同じように 銀(しろがね)に輝く太刀が、切り伏せていた。
それに気付いて知盛の方を振り向いた望美はやはり涙顔で、
―――お前は、本当にいい女だったぜ・・・・・ 小さくなっていく望美の姿を追いながら、そう思う。
―――じゃあな・・・・・・・望美。
目を閉じて、彼女の姿を静かに思い描く。
「し、銀様・・・・・」 動揺する兵士の声に、再び目を開け、口の端を吊り上げる。 「見ての通りだが・・・・・わからんか?」 「わかりません!!なぜ捕らえるはずの神子を助け、 兵士の憤りに大して反応することも無く、 「名乗ってやらねばわからんか・・・・・・俺は、「銀」などではない。」 「な、何と!?」
「我こそは先の太政大臣、平清盛が一子、平知盛である!
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「―――望美!!」 ずっと帰りを待っていたのだろう、望美の姿が見えるなり 「どこまで行っていたのあなた、こんなに傷だらけで・・・・」 ろくに言葉を発することもできず、 「また・・・・・っ また・・・・・・・!!私、また彼を・・・・・・!!」 その後しばらくは、望美は
一度ならず二度までも・・・・・・それも、同じ運命で・・・・! 銀として共にいてくれた時間も、 お願い、どうか私にあなたを救わせて。
そして私はまた運命を遡る。
完。 |
えー、まあ3話続きましたがこれが私の銀像(発売前)です。
記憶喪失ってのはちょっと違うと思うんですよね、
記憶なくしてなくても普段から彼は目上の人物に対しては
銀みたいな感じで接してたと思うんで
(演技派?)(そういうわけじゃ・・・)
・・・・でも今回、「何で知盛が銀なのか」というところに関しては
言及避けましたえへv(えへvじゃねえ!)
これはもうね、「何で壇ノ浦で死んだはずなのに奥州にいるんだよ」
くらいに謎な部分なので想像もし難いです。
(ちなみに漂流説は・・・・ーー;)
何となく衣装とかからして白龍が関わってんのかなーとか
思ってみたりもしますがまあ多分関係ないでしょう(ぇ)
十六夜発売まであとわずか、
発売後にまたこの話を読んで、
設定の違いに大爆笑したってください(笑)
お付き合い頂いてありがとうございました〜!
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