| 銀の太刀 〜太刀は舞う〜 |
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「皆、頑張ってくれ!衣川まであと少しだ! 以前奥州で過ごしていたことがある九郎と弁慶が、 「先輩、大丈夫ですか?」 自分でも気がつかないうちに足元までふらついてきていた。 「あ、うん、大丈夫だよこれくらい・・・・あと、少しだもん。頑張らなきゃ!」 こんな所で皆の足を引っ張りたくは無い。 「そう・・・ですね。でも、本当に無理そうだったら言ってくださいね。」 ともすれば倒れそうになる自分の体に何とか鞭を打って、
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―――壇ノ浦から、もうどれくらいの距離を来たんだろう・・・・ ふと、何とはなしにそんな事を考えてみる。 ―――長い、道のりだったなあ・・・・・ 本当に。今まで、振り返る余裕も無かったけど。 ―――壇ノ浦で戦ったのは春の初め・・・・だったっけ・・・・ 今は辺りの草木は色とりどりに色づき、すっかり秋の様相である。 ―――もう、半年も経つのに、ね・・・・・ 今でも、昨日の事みたいに覚えてる。 春の初めの壇ノ浦は、潮風が冷たかった。 ・・・・・・全てを見納めて、最後に波間に消えた、平家の将・・・・・・
「波の底にも、都があるらしいぜ・・・・平家の夢の都がな・・・・」
―――あるわけないじゃない、そんなの・・・・・! にやりと不敵に笑いながらそう言った彼がありありと思い出されて、 「知盛・・・・っ」 名前を口にした事でさらに感慨が募り、
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「―――先輩っ!危ない!!」 譲の切羽詰った声と共に思い切り突き飛ばされた事で我に返る。 「・・・っ 譲くん!?」 直後、今まで望美がいた場所を一本の矢が飛び去っていった。 「望美さん、譲くん、怪我はありませんでしたか。」 こちらを気遣っていた弁慶が視線を戻した方向に目をやると、 「どうしますか、九郎。」 ここまでか、と覚悟を決めたように俯いて目を閉じる九郎。 「ここまで来ておいて、 全て図星で言葉が出ない九郎。 「全く・・・・君が今からそんな調子ではこの先思いやられますね。 言いながら、弁慶の目線は既に敵を真っ直ぐ捉えていた。 「・・・・弁慶さん?」 弁慶のまとう尋常でない雰囲気が不安になって恐る恐る呼んでみる望美。 「望美さん。必要最小限の道だけ何とか開きますから、後は全力で走ってください。 弁慶なりに、望美にもはや戦闘をするだけの体力が残っていないのを 「安心してください。僕こんな所で死ぬ気は毛頭ありませんから。」 否とは言わせない、半ば脅迫じみた勢いで「いいですね?」とたずねられると、 「――では、いきますよ!」 急にぐっと激しく腕が引かれたかと思うと、 「なっ 弁慶!!・・・・くそ!あの馬鹿!!」 やや遅れて、九郎や他の面々が走り出すのが聞こえた。
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ガキィン!! キィン!! 「ぐわあぁっ!」 一人、また一人と行く手を阻む相手を切り伏せていく。 「望美さん!こっちです!」 しかしいよいよ望美の体力も本当に限界が来ており、 ―――こんな事が前にも・・・・あったっけ・・・・・ あれは確か、そう。生田の戦いで・・・・・ ―――そして・・・・生田で私は・・・・・
―――初めて彼に、逢ったんだ―――
「――っっ きゃあっ!」 物思いをしながら走っていたせいか、 「!! 望美さん!!」 望美を守ろうと引き返してくる弁慶の行く手をまた別の兵士が阻む。
ガキイィィィィィン・・・・・・・・
・・・・・・と、思った。 鼓膜が破れそうな程の金属音に思わず両耳を塞ぎながら、 自分はどうやら、死んではいないらしい。
有り得ない人影が、そこにあった。 追い詰められた精神状態が、幻を見せているのかと思った。 ・・・・・だって、今自分の目の前で、 ・・・・・・・・・・・忘れるはずも無い、あの双刀を構えて、敵の刃を防いでいる、 ・・・・・・・・銀(しろがね)の髪を持つ男は。
「こ・・・の・・・・・!」 双刀の男が今度は望美を襲った兵士の剣を弾き飛ばすと、 「ぐあああ!!」 地に沈む兵士には目もくれず、また望美にも背を向けたまま、
「―――神子様。今しばらく、私の傍から離れぬようお願いいたします。」
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彼の剣の腕は相当だった。 ―――彼と、同じ・・・・・・・ 先程短く発せられた言葉を紡いだ声も、わずかに違いはあれど 未だ、信じられない。 彼はあれから何一つ言葉を発しない。
どれほどそうしていただろう、ようやく敵の切れ目が見えてきた。 「ここまで来ればもう安全です。・・・・お怪我はございませんか、神子様。」 ―――同じなのに、違う・・・・? 「・・・・知盛・・・・?変だよ、さっきからその言葉遣い・・・・」 いやな予感が当たらなければ良いと思った。 「・・・・・『知盛』・・・・?」 男は訝しげに言葉を返すと、困ったように視線を逸らした。 「・・・・知盛、でしょ・・・・?」
「・・・・・私は、銀(しろがね)と申す者です。」
しばらくの間、絶望のあまり言葉を発する事ができなかった。 こんなに似ているのに、何もかも、同じなのに。 ・・・・別人、なんて・・・・・・
やがて後から追いついてきた弁慶や九郎にも、もちろん銀は詰め寄られた。 だがそれに対しての答えが、望美の期待を完膚なきまでに打ちのめす。
「私は、奥州藤原の者。あなた方の敵ではありません。」
受け入れたく、なかった。 別人だなんて、信じたくなかった。 ・・・・・でも、信じるしか、ない。 彼は本当に違うのだから。
こんなにも、似ているのに―――
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最初は譲で、次は弁慶で、最後は銀においしいところ持ってかれてる
かわいそうな八葉たち(うわぁ)
いや、書いた作者はそんなつもりは微塵も無くて!!
ただ書いているうちにそうなっちゃったという・・・!!!
銀の戦闘姿を生き生きと書きたかったというのが
一番の目標だったんですが
所詮私に躍動感の描写は無理だった○TL
譲出てくるの初めてじゃないかな(うわぁ) 弁慶が無駄にかっこ良くなった(みぎゃあ)
そして図々しくも続いたりします。
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