「究極召喚したら・・・ユウナ、死んじゃうんだよ!?」
炎上するアルベドのホームでリュックに言われた一言は、重い自責の念となってティーダにのしかかる。
「知らなかったの・・・俺だけかよ!?」
・・・・・あまりにも自分が情けなかった。
シンさえ倒せば全て終わる。
この世界が平和になれば、ユウナは心から笑う事が出来る。
そしたらオレのザナルカンドにだって帰れるし、ユウナも行きたいって言ってた。
そう、ユウナと一緒に・・・
でも、オレがユウナに言ってきたことは、全部ユウナを傷付ける事だったってのか!?
シンを倒した後の話をするたびに、ユウナはオレと一緒に笑ってた。
ザナルカンドにも行きたいとか、ブリッツの試合を見たいとか、
いっぱい、いっぱい笑ってた・・・
なのに、その笑顔も全部無理やり作った笑顔だったとしたら、
自分はもう見れない、聞けないはずの事を話されて、
それで無理やり話に付き合ってただけだとしたら、
・・・・オレはユウナに何て言えばいいんだ!?
ユウナの気持ちも知らずに・・・オレは今までなんてこと言っちまったんだよ・・・!
ユウナに、どうやって会えばいいんだよ・・・
ユウナはシンと戦って、究極召喚を使ってシンを倒す。
そうすればスピラには平和が戻る。・・・でもユウナは・・・死ぬ・・・
それを全て承知した上で、召喚士の道を選んだ・・・そうなのか?
自責の念に押し潰されそうになりながら、リュックの案内で地下格納庫の乗物に乗りこんだ。
「シドラン!ヨエベゲンミンベヌ!(シドさん!これで全員です!)」
「おっしハッチ閉めろぉ!!」
・・・・・スピラのために・・・ユウナが・・・死ぬ?
・・・・・そんなの、間違ってる!!
ユウナの覚悟はわかった。だからもう1度ユウナに会って、謝らなきゃ!
そして絶対にユウナを守り抜いてみせる!!ユウナは絶対死なせない!!
離陸を待つばかりになったシドにティーダが言う。。
「頼む・・・ユウナの所に連れて行ってくれ!」
「ユウナにこれ以上旅を続けさせるわけにはいかねぇ!」
その気持ちはわかる。でも自分にはやるべきことがある。
「ユウナに・・・謝らなきゃいけねえんだよ・・・!」
「謝ってどうすんだ?またそのまま旅を続けんのか!?召喚士が死ななけりゃならねえ旅を!!」
「ユウナは絶対死なせねえ!!!!」
絶対に、死なせない。死なせてたまるものか!
シンを倒した後も、ずっと生きていられる方法が、絶対にあるはずだ。
「口だけならいくらでも言えるけどよ。理想と現実は違うんだよ!!」
「口だけじゃねえよ。絶対に守り抜いてみせる。
オレは・・・ユウナのガードだから。」
二人の様子を見守っていたワッカがティーダの気持ちに共感するものを感じ、
自らも前に出て懇願した。
「オレからも頼みます。・・・ホラおまえも頭下げろティーダ!」
無理やりティーダの頭を下げさせる。
しばらく沈黙が続いたが、やがてシドの顔に微笑みが現れる。
「絶対に、守りきれるか?」
「ああ。男の約束だ!!」
「おっし乗った!
トミ、トヤネ!ソッソソニニルヌウボ!!(おい、お前!とっとと離陸するぞ!!)」
「ニョフアミ!(了解!)」
突然、機体全体が大きく揺れ出す。勢いで思わず尻餅をついてしまった。
「しっかり捕まってろよぉ!」
「うわああぁぁ!?」
「何なんだこの機械はぁ!?」
「飛空挺だよ!飛空挺!!」
「飛空挺!?!?マジかよおい!?」
機械が禁止されているスピラにもいくつか移動用の機械はあるが、
空を飛ぶ機械などワッカは生まれてこの方聞いたことがない。
「行くぜぇ!!1000年ぶりのフライトだ!!」
轟音と共に1000年の眠りから覚めた飛空挺はまだ炎上を続けるアルベドのホームを飛び立った。
程なくして、ホームに別れを告げる歌を乗組員が歌い、ホームは爆破された。
飛空挺は目が覚めるほどに速い。みるみるうちに砂漠が遠くなっていく。
「今レーダーでユウナの居場所探してっから、ちょっと待ってろ!」
「レーダーで探せるんすか?」
「当ったり前だ!大事な甥っ子死なせてたまるかってんだ!」
そのセリフを聞いたワッカはひそかにぼやいた。
「・・・となると・・・ユウナにもアルベドの血が流れてるってことだよなぁ・・・
う〜ん・・・」
しばらくすると、操縦席のアニキが叫んだ。
「トタギ!ユウナオミザキョダカアッサボ!!(親父!ユウナの居場所がわかったぞ!)」
「何?ユウナの居場所がわかった!?」
ユウナの居場所がわかった―その言葉に即座に反応したティーダがつめよる。
「どこだ!どこにユウナがいるんだ!?」
「あそこは・・・まずいな。聖ベベル宮か・・・」
先ほどまでの威勢はどうしたのか、やけにシドがまずそうな顔をしている。
「でも、そこにユウナがいるんだろ?」
「ベベル宮はエボンの中心地。警戒の厳しさも半端じゃねえし、侵入はまず無理だしなぁ・・・」
「それでも、オレは行くぜ。」
レーダーに映るユウナの座標を見据えて答える。
「ユウナがそこにいる。だったらそこに助けに行く。―――そんだけっすよ。」
・・・・・全くこの男は。恐れというものを知らない。
この男ならあるいは、甥のユウナを死なせないでくれるかもしれない。
大事な甥の命を、預けてもいいかもしれない。
シドが決断を下そうとすると、操縦室の入り口から他の乗組員が入ってきた。
「シドラン!・・・ヒクウテイオハアシヤコオダ・・・!(シドさん!・・・飛空挺の中に魔物が・・・!)」
「何だって!?」
先に反応したのはリュック。――せっかくここまで来たのに!!
「きっとホームを脱出した時に紛れ込んだんだろう。・・・わかった!それじゃこの飛空挺」
「この飛空挺ごと爆破して、敵を蹴散らしたるわー!!でしょ?」
「うう・・・」
シドのセリフをリュックに取られ、なんとも気まずそうなシド。
そしてそんなシドの思考に呆れるリュック。
「・・・・はぁ〜・・・・親父は手加減ってモンを知らないんだから・・・
そんなコトしたら、あたし達どうやってベベルに行くのよ!?ここはあたし達に任せて!」
「リュックの言う通りッス。ここはオレ達に任せてくれよ!」
「そうだな・・・じゃ、頼む!
トヤネ!ベベルシツアッセゲンホルゲンキンガ!!(お前!ベベルに向かって全速前進だ!!)」
「ニョフアミ!!(了解!!)」
魔物退治を引きうけ、飛空挺内を走り回っているうちに、飛空挺のキャビンに来た。
ふとアーロンが外を見る。
「・・・・・・ほう・・・なかなかいい見物だな。」
「何じゃありゃ!?」
竜の様に長いからだを持つその生物は、ティーダにとっては初めてのものだった。
「エボンの守護聖獣・エフレイエ。聖ベベル宮を守護する最強の聖獣よ。」
ルールーが説明してくれたが、信じられない。この細い体のどこに、そんな力が秘められているのか。
その大きさにただ唖然としていると、艦内放送がかかった。
「おいリュック!リュック!!聞こえるか!?
今からあれと一戦交える!お前らは甲板で迎え撃て!いいな!!」
・・・「いいな!!」も何も・・・選択の余地ないじゃん・・・
「全く親父は人の事絶対考えないんだから・・・」
しかしそれでも、このままでは飛空挺を攻撃されかねない。
一同は最強の守護聖獣と戦うため、甲板へと出た。
戦いは熾烈を極めた。「近からず遠からずで戦う」というシドの作戦は悪くはなかったが、
さすがは守護聖獣。その攻撃力は侮れなかった。
シド自慢の飛空挺の誘導ミサイルが途中で弾切れするなどのハプニングがあったものの、
なんとかエフレイエを倒した。
じきに荘厳な雰囲気が漂う寺院が現れた。
「おい!あれがベベル宮だぞ!!」
放送でシドが怒鳴る。
「あれまさか・・・ユウナか!?」
「なんで結婚の衣装なんて着てるんだ!?」
「あれシーモアじゃん!!マカラーニャで倒したはずなのに!」
想像もしなかった景色に一同は驚きを隠せない。
「ゆっくり下ろしてる暇はねぇ!ワイヤー出すから、それつたって寺院に降りてくれ!」
「わかった!ここまでありがとよおっさん!」
寺院に間近にまで近づくと、さすがに向こうもこちらに気付いたらしい。
僧兵が一斉に銃器でこちらを打ってきた。
「ユウナを助ける前に自分が死体にならんようにな。」
いつもながらアーロンの「助言」が入る。
「へっ わかってるぜそれくらい!」
一瞬、砲声が止んだ瞬間を見逃さなかった。
「今だ、お前から行け!」
ワイヤーが寺院の一角に投げられ、飛空挺が寺院を中心に大きく弧を描く。
すかさずその上をティーダを筆頭に滑り降りて行く。
ユウナの顔は、すぐそこに見えている。
・・・絶対に、死なせたりしない。旅は続けても、究極召喚をしても絶対死なないように守る!
そしてまずユウナを助け出したら・・・これまでのことを謝る!
ユウナの覚悟もなにも知らずに、軽い気持ちで残酷なことを言い続けたことを・・・
オレは、ユウナのガードだから。誰が相手でもユウナを守る。
誰にも譲れない決意を胸に、少年は敵地の真っ只中へ足を踏み入れた。
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