氷雨の中の兄妹 〜公明編〜 |
俺が必ず守ってやる。 もう誰も悲しまぬ様に・・・
ザアァァァァァ・・・・ なにも答えない瓊霄から離れて、他の二人の妹達に尋ねた。 それは前の日、瓊霄が突然公明に尋ねてきた事だった。 ・・・この笑顔を、壊したくないしな・・・ ふっと笑ってみせると、とっさに思いついたことを口にした。 「どこかで生きているはずのおふくろ」を・・・信じていてもらいたい。 昨日はあんなに笑っていたのに。なぜ今日はこんなにも落ちこんでいるのか。 「趙公明・・・」 * ―――もしそれを言っちまったとしたら、あいつの性格なら、絶対に傷つく! |
* しばらく続けていると、瓊霄が咳き込んで息を吹き返した。 やがてゆっくりと目を開け、うつろな目でこちらを見上げてくる。 「兄・・・様・・・?」 「瓊霄!」 やはり生きていた・・・!なかなか目を覚まさないので 一瞬手遅れかとも思ったが、やはり生きていた! 「兄様、あたし・・・」 「っのバカ野郎が!」 「ごめんなさい!あたし・・・あたし怖くて・・・」 すっかり冷えてしまった妹の体を包み込む様にして抱きしめる。 「あんまり兄ちゃんに心配かけさせんじゃねえよこの野郎が・・・」 腕に力がこもる。 「こんなに冷たくなっちまって・・・死ぬ気かよお前!」 ・・・失ってしまうかと思うと、怖かった。 絶対に守ると誓った妹達を・・・失うのが怖かった。 「・・・ったんだ・・・」 「ん?」 腕の中で、瓊霄が呟いた。 「死ぬ気だったんだ、あたし。」 あまりに唐突なその言葉に、公明が憤慨する。 「何でだよ!何でお前が死ななきゃならねえ!?誰かになんか言われたのか!?」 「昨日ね・・・母様は私を生むとすぐに死んだって・・・教えられたんだ。 あたし、何だか生きてちゃいけないような気がして・・・」 「誰がそんな事言ったんだ!!俺達のおふくろは、ちゃんと・・・」 「もう、嘘付かなくていいよ、兄様。姉様に聞いたんだもん。 あたしを生んだ後すぐ死んだって・・・ あたしが生まれたせいで、母様は・・・・」 ・・・やっぱり・・・言っちまったのかあいつら・・・ 「あたしさえ生まれなければ、母様は死なずに済んだんだ!!」 「バカ言うんじゃねえ!!!」 妹の肩にしっかりと手を置き、向かい合った。 ・・・隠し続けても、いつかはばれちまう事だとはわかってた。 それでも、ほんの少しでも傷付かずにいてくれればと思っていたが・・・ この際、隠すよりもしっかりとわからせた方が良さそうだ。 「そこまで知っちまったんじゃあ、今さら隠した所で何の意味もねえ。 ・・・確かに、おふくろは死んじまったんだ。お前を生んで、すぐにな。 手伝いに来てたやつの話じゃ、お前は死産かもしれないとまで言われてたんだ。 おふくろの命が助かるにはそれしか道がなかった。 でもおふくろはこう言ったんだ。」 死ぬ前の、母の言葉を思い出しながら、言った。 「『私は死んでも、この子だけはどうしても産みたいのです!お願いします・・・』」 病と産みの苦しみに襲われながら、それでも母はこの言葉を言ったのだ。 「死ぬ直前にもこう言ってた。 『私はこの子が大きくなって、幸せに暮らしている所を見る事はできないけれど、 きっと明るくて、元気で、みんなから好かれる子に・・・』ってな。」 それは遺言であり、自分に課せられた使命。 だからできる限り瓊霄の前では悲しまなかった。常に明るくありつづけた。 それで瓊霄が笑い続けてくれるなら。母親のいない悲しみを、拭い去ることができるなら。 「ごめんなさい!ごめんなさい!!ごめんなさい兄様・・・・」 泣きながら、瓊霄が胸にすがりつく。 「過ぎちまった事だ。もういい。 お前は現に、こうして生きていてくれた。俺はそれだけで十分だ・・・」 「兄様・・・」 「泣くなら今のうちに泣いちまいな。これからはもう・・・自分を責めるな。 お前らが自分を責めないでいいように、俺がお前らを守ってやるから。 自分を責めて泣くな、いいな!」 泣きつづける瓊霄を、そっと外套で包んでやる。 ・・・・絶対に、守りぬく。あの時もそう誓った。 聞仲も妹達も・・・絶対に失わない。 大切な者をなくさぬ様に・・・強くなる。 ここへ来る前にそう誓った。 そして今、改めて誓いを立てる。 俺が必ず守ってやる。 もう誰も悲しまぬ様に・・・ やがて瓊霄が泣き止み、元のはちきれそうな、真夏の太陽を思わせる 飛びきりの笑顔で言った。 「兄様! 瓊霄、もう泣かないよ!」 遠くから、二人の妹達が近づいてくるのが見えた。 「瓊霄!!無事だったのですね!!」 「よかった・・・本当に良かった・・・」 「うん。もう、大丈夫だよ!姉様達、兄様、心配かけてごめんなさい!」 にっこりと微笑んだ後、軽く頭を下げた。 「ったくこの・・・謝るくらいなら初めからすんじゃねえよこいつ!」 笑いながら、瓊霄の頭を軽くこずいた。 今をさかのぼる事、五年程前の梅雨の日の話・・・・ 完 |
ここまで読んでくださってありがとうございます。瓊霄編よりやっぱ長くなりましたね・・・
「氷雨の中の兄妹―公明編―」です。
人工呼吸のシーンでかなり止まりました。
一応言っときますけど、ラブラブものじゃないですからね!?
「人工呼吸」は漫画の世界ではほぼ「キス」と同様に扱われる事が多いですが、
ここでは本当の意味で「呼吸をさせるため」です。ええ。それだけです。
あと、途中で聞太師が人界へ降りるシーンありましたね。
私なりにある程度の構想は前々からあったんですが。
「時々顔を見せに来い」ってのがポイント(笑)
今度は二人の修行シーンでも書こうかな。
あ、ついでに。通天教主はゲーム版の「悪役ボス」的な人よりも、
CD版のまだ温かみがある教主にしてます。
・・・一応・・・3姉妹は聞太師とも結構仲がいいと思われます。
ゲームでの瓊霄ちゃんの悲しみ様見る辺り・・・