あるべき場所へ、還る刻
オレは何で、お前は何なのか、なんて・・・・
考えたことも無かった
だって、必要無えじゃん
お前は神で、オレはその童子
それだけ、なんだから・・・
悪陣神「兄の魂・・・だと?」
???「考えてもみよ。お前が天界へ来たあの日、
お前の兄は確かに天帝の霊獣に食われたはずだ。
そしてお前はその身体を取り込んだ。それが今のお前を「構成」している・・・」
悪陣神「・・・・何が言いたい!」
???「例え食われていたとは言え、完全に取り込んだのであれば、
魂が「己」というものを覚えているはず。身体の再構築は成されるはずだ。
だが今のお前の姿はあの時の兄の姿そのもの・・・
「お前」の身体はどこへ行った?お前の兄の「魂」はどこへ行った?」
悪陣神「・・・何が言いたいと聞いている・・・答えんか!」
???「・・・やれやれ。先の悪陣神の子倅は全く成長しておらんと見える。
己の問いに答えてもらいたいのなら、まずこちらの問いに答えてもらおうか。」
悪陣神「くっ・・・・」
初めて見た。
この方が他人にこんなにも追い詰められるなんて。
いつもは追い詰める側なのに・・・
だけど、様子が違う。
それに・・・・何だ?
余りにリアルに感じすぎる、この不安は・・・
悪陣神「・・・・お前の言うことにも一理あるかもしれん・・・
ああそうだとも。私はあの時確かに兄の身体を取り込んだ。
兄をあの苦痛から救いたくて。たとえ自分がどうなろうとも、兄を助けたくて・・・!
だが、今の私には欠けているものなど無いはずだ。
あの時私は魂ごと兄を取り込んだはずだからな!でなければ・・・
もし、あの時魂だけ逃してしまったのなら・・・・
私は兄を救えたことにはなっていないではないか・・・」
徐々に語気が弱くなる悪陣神。目線も相手から地面に下がってくる。
???「・・・全くその通りだな。つまり、こういうことだ。
お前は兄の身体の完全な取り込みに失敗し、「肉体」だけを取り込み、
魂だけ逃した。
だが、まだ弱かったお前は二つの肉体を融合する事も出来ずに、
自らの肉体を手放した。
ここに、魂は弟、身体は兄という中途半端な身体ができあがったわけだ!」
悪陣神「私は・・・・救えなかったのか・・・・?ではあのまま兄は・・・・・・」
邪韓竜「そんなことは無いです悪陣神様!!あるわけ無いじゃないですか!!」
???「ほほぅ、なぜ言い切れる?」
邪韓竜「・・・・貴方が言う事実がどうだったかなんて、僕が知る由はありません。
ですが、これだけは言い切ります。
―――悪神様、貴方の兄君は絶対に救われているんですよ。
霊獣の糧となることを、貴方の兄君は望んでいらっしゃったのですか?」
悪陣神「・・・・生きたかったはずだ・・・・まだまだ、未来を見たかったはずだ・・・!
だが、私と父を天界に入れるために、自らっ・・・・!
その上その魂すら霊獣から奪えなかったのだぞ?救えた訳が・・・・」
???「無いな。奇跡的に自らの力で霊獣から逃れる以外に破刃苦楽夢で夢見る方法は無い。
だが、まず無理であろう。あのように幼い力ではな!!
さあ悪陣神、いや雅閻淋よ!己の力無さを悔いて滅ぶが良い!!」
???の掌底に気弾が集まる。
悪陣神は完全に威勢を無くして地にひざをつく。
邪韓竜「させてたまるかぁっ!」
邪韓竜が悪陣神の前に立ちはだかり、自らも両手に気弾を集める。
???「・・・・そうか・・・お前はあの夢喰童子か・・・」
邪韓竜「だったらどうした・・・」
???「(夢喰童子は破刃苦楽夢に住んでいた神々の夢を喰う童子・・・
そして夢の持ち主の能力を使いこなすという・・・)」
掌底の気弾を収め、じっと邪韓竜を見つめ考え込む。
???「(だが破刃苦楽夢に存在する全ての生あるものは
皆実在したものの夢であるはず・・・ということは・・・・!)」
結論にたどり着いた???は二人の主従を見てニヤリと満足げに笑う。
???「なるほど・・・それなら全てに筋が通る・・・」
邪韓竜「何のことだ。もったいぶらないでさっさと話せよ。」
邪韓竜は怒りが高まり、眼光は「夢喰童子」の鋭いものに変わっている。
???「・・・悪陣神よ、いい事を教えてやろう。
確かに、兄の魂は救われているのやもしれん。
『これ』がそうだと言うならな。」
悪陣神「何・・・?」
???「お前がこの夢喰童子に初めて会った時に感じたという既視感、
奇妙なまでに媒体に馴染むその魂、
そしてお前達が互いに感じるという一体感・・・
これら全てが示すことは、一体何なのであろうな?」
邪悪な笑みを浮かべながら話す???。
悪陣神「・・・まさか・・・そんなはずは・・・・」
???「では試してみようか」
悪陣神「やめろ、やめてくれ・・・!」
???「王袁よ!お前は今、どこにいる!!」
悪陣神「嘘だと言ってくれ!!」
何でだ・・・?
今日は違う響きに聞こえる、この名前。
今までに何度も聞いてきた、ヤツの兄貴の名前。
俺の名は・・・・夢喰童子になる前に、俺は何だった・・・?
俺は、どこにいた・・・・・?
俺は・・・誰だ・・・・?
俺の本当の名は・・・・
邪韓竜「・・・・ここに、いる・・・・・」
悪陣神「!!」
邪韓竜「そう・・・だ・・・あの時、霊獣に食われて・・・
誰かに、肉体だけを引き込まれて・・・・
でも、死にたくなくて、それだけで・・・死に物狂いで逃げ延びて、
気がついたら・・・・あの場所にいたんだ・・・・」
悪陣神「嘘だろう・・・あの夢喰童子が・・・・お前が・・・兄上・・・・?」
???「お前の、名は?」
邪韓竜「・・・・王、袁・・・・・俺の本当の名は、王袁・・・・!」
悪陣神「・・・・・!!そんな馬鹿な・・・・っ!」
???「面白くなってきたな。悪いが、今その童子が述べた事は
全て真実だ。私が言わせているわけでは断じてない事は言っておこう。」
邪韓竜「お前が・・・・雅閻淋・・・・?」
何だろう、この感じは・・・・
今まで靄がかかってたのが、徐々に晴れていくみたいな・・・
後から後から、あふれ出てくる
全ての記憶が・・・本来の「王袁」が。