風の詩(うた)

 

風の詩(うた)が聞こえる

丘の上に空が広がる

君の歌が聞こえる

私を呼ぶ声が――


メタ    「何の用ですか。貴方達は。」

苦楽夢  「・・・・・『エノクの書』を取りに来た。」

メタ    「・・・本気ではありませんよね?
       この聖地に無断で足を踏み入れただけでなく、
       暴力を振るい、私たちの仲間を傷つけた。
       ・・・・・そのような汚れた身で、本気で
       この書を手にしようというのですか。」

苦楽夢  「勘違いしてるみたいだから言っておくけどな、
       オレ達は何も戦いたくて戦ってきたんじゃないからな!
       お前ら天使が俺達の姿見るなり飛び掛ってきたんだからな。
       迷惑してんのはこっちなんだぜ?」

メタ    「あなたがたの言い分には耳を貸す気はありません。
       ・・・・・言い訳にしか、聞こえない。
       いつもあなた方神はそうだった。
       そして私たちは裏切られ続けた・・・・

       もう、神の言葉など聞かない。
       私達の道は、私達が決める。そう決めたのですから。
       ・・・・『エノクの書』は、絶対に渡しません。
       どうしてもというのなら、この私を倒していきなさい・・・!」

その小さな体に似合わず、強大な力を誇るメタトロン。
苦しめられ、長期戦を強いられる一行。
しかし一瞬の隙を付いてチャンスを掴んだ一行は、形勢逆転、
メタトロンに勝利した。

メタ    「・・・くっ・・・・っ!」

苦楽夢  「じゃあ・・・・渡してもらおうか、例の書を・・・」

メタ    「私は神と違って嘘はつかない・・・でも・・・っ
       ひとつ、言っておきます・・・・
       あなた方がエノクの書を手にしても、何も起こりはしませんよ。

       エノクの書がその秘められた業を発動するのは、
       今は封印している私の相棒との力が合わさった時のみですから・・・っ」

苦楽夢  「なに!?」

皇雀    「じゃあ早くその相棒さんの封印を・・・」

メタ    「嫌です!絶対に・・・・この封印は解きません!!」

白矢   「・・・・おい・・・・矛盾してるぜあんた?
       さっきは嘘はつかないって言ったくせに、
       今度は絶対に封印は解かないなんてぬかして・・・・」

時緒   「・・・・あの・・・・・なぜ、封印しているんですか・・・・
       あなたの、大切な相棒さんなんですよね?」

少し控えめに、しかしメタトロンと視線を合わせようと話しかける時緒。

メタ    「なぜって・・・・・『彼』は・・・・・」

白矢   「封印解いたら、俺たちに何かまずいことは起こるか?」

メタ    「・・・・いいえ・・・・」

白矢   「じゃ、ここは因果応報ってことで。」

メタ    「えっ!?・・・・・あっ!!」

言うが早いか、白矢は先ほどからメタトロンが握り締めていた
小さな鍵をたやすくひったくる。

苦楽夢  「白矢!?」

白矢    「場所は・・・・多分あそこだろ、妙に開けたあの高台。」

メタ     「やめて・・・・」

苦楽夢   「白矢、どうしたんだよ!」

白矢    「行くぜ苦楽夢。さっさと封印解いて、エノク書発動させりゃいいんだろ?」

メタ    「やめて・・・っ!」

白矢の後を追って足早に去っていく苦楽夢。
時緒と皇雀がその場に残る。
メタトロンは先ほどの戦いの衝撃で動けずにいた。

高台に到着する白矢。

白矢   「・・・やっぱりな。この円陣、間違いないだろ。」

円陣に数歩踏み込み、鍵を取り出すと、
鍵は勝手に円陣の中央に突き刺さる。
すると、円陣は五芒星を描いた陣に変わり、
陣が輝きだす。

白矢   「・・・・何が出てくるんだろうな。」

苦楽夢  「何って・・・メタトロンの相棒とやらだろ?
       ってお前、わかっててやったんじゃねえのかよ!」

白矢   「まあそうなんだけどよ。・・・相棒が同じ天使とは限らない、と思ってな。」

苦楽夢  「・・・ま、まあな・・・・・ところで」

白矢   「出たぞ!!」

苦楽夢が白矢に何か聞こうとした瞬間、
陣の輝きの中から何かが形をとって現れた。

翡翠色の長い髪
黄金の羽に赤い目を宿した孔雀の尾羽
大きく広げられた銀色の翼
そしてその顔には顔の半分を覆う鉄仮面

鉄仮面のせいで表情は読み取れない。
だが―――なぜか、危険を感じる、そんなオーラが出ていた。

??? 「我ヲ呼ビ覚マスハ誰ゾ・・・・」

白矢  「お前は・・・・」

??? 「オ前ノ呼ビ出シニ答エテ我ハ来タ。
      ダガオ前ハメタトロンデハ無イ。・・・・オ前ハ誰ダ。メタトロンハドコダ?」

苦楽夢 「メタトロンなら・・・あそこにいるぜ。」

苦楽夢が指差した場所をサンダルフォンはすぐさま見る。
まだ時緒と皇雀がかまっているメタトロンに目を留めた。

??? 「・・・誰ガメタトロンを手ニカケタ・・・
      メタトロンヲ傷ツケタハ、誰ゾ!?」

謎の鉄仮面の男はいきなりこちらを敵とみなしたらしく、
今にも襲い掛からんばかりの勢いで気を溜め始める。

メタ   「やめ・・・て・・・・やめて・・・おねが・・・い・・・っ」

しかしメタトロンの必死の叫びもこの男には届かない。

怒り狂う鉄仮面の男に、
先ほどのメタトロン戦の疲れが未だ癒えていない苦楽夢と白矢、
さらには皇雀と時緒までが翻弄される。

そしてもはや苦楽夢達が次の一歩も出せなくなる頃。

メタ   「お願い!もうやめてサンダルフォン!!!」

力を振り絞って鉄仮面の男の足にしがみつくメタトロン。

メタ   「わたし・・・が・・・負けたんです・・・彼らに・・・
      わたしがこの書を守りたくて、彼らに勝負を挑んで・・・
      それで・・・っ

      けれど・・・っ
      わたしは彼らを滅ぼすつもりは無いんです・・・っ
      わかってサンダルフォン・・・っ」

無い力で精一杯足にしがみつく。

??? 「・・・・メタ・・・トロン・・・・・」

ガラン・・・鉄仮面が地に落ちる。

中から現れたのは孔雀の羽にあるものと同じ
真紅の瞳。
そして額にあるのは大きな瞳を思わせる紋章。

???  「メタトロン・・・君は・・・・・・
       その姿は・・・・・」

先ほどまでの狂ったような勢いはどこへやら、
ただまっすぐにメタトロンを見つめる男。
そして顔を上げ、周りを見回す。
今の状況を一つずつ把握しているようだ。

???  「・・・・・・僕は・・・・何をしていたんだ・・・!!」

メタ    「サンダルフォン・・・?」

サン    「君に・・・封印されて・・・・
        でも、長い間、ずっとあの場所から君を見ていたのに・・・・
        独りで必死に務めを果たそうとしている君を、ずっと・・・っ
        でも僕は、あの場所から出ることも出来なくて・・・!」

ズキン・・・メタトロンの心が痛む。

それは、わたしのせい。
わたしの勝手で、あなたを封印して。

・・・怒ってるよね、もちろん・・・・

だが、サンダルフォンが次に言い出した言葉は。

サン   「・・・・ずっと君を助けたいと思っていたのに、
       僕にはそれが出来なかった!
       そしてしまいには・・・そんな僕の思いが形を取ってしまって・・・・
       この鉄仮面になってしまった始末だ!
       君を助けるどころか君を苦しませるばかりで・・・・・・
       僕はそれが悔しくてたまらないんだ!!」

・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・?

なぜ、怒らないの・・・?

どうして、怒ってくれないの?

私はあなたに、何をしたと思っているの?

私の、私なんかの、勝手な都合で・・・・

あなたをこんな目に合わせたのに、

怒ってないはずが無いのに!