国 破れて 山河 有り

 
  

天界大戦の終戦から…

およそ一年ほどの月日が流れた。

荒れ果てていた天界は徐々に落ち着きを取り戻しつつあり、

平和な世界を形作りつつあった。

そして苦楽夢達は…

苦楽夢「何か、平和になっちまったなぁ〜」

皇雀「何言ってるの!平和なのはいいことでしょ!」

苦楽夢「まぁ、そうだけどよぉ…何か、俺たちもう必要ねえんじゃねえ?」

皇雀「え……」

苦楽夢「考えてもみろよ。俺達は何のためにここに来た。」

皇雀「天界の危機を救う為…って、あ…」

苦楽夢「今、この世界は平和で、安全だ。オレ達の用はもうない。

………そろそろ、潮時か……」

皇雀「……そうかもね。私達はもともと人間界の人間に過ぎない。

いつまでもここにいるのは、ちょっとね。」

苦楽夢「そうと決まれば早速みんなを集め―――」

???「おーい!苦楽夢さーん!皇雀さーん!!」

遠くから人が近づいてくる。

しかし、どうも見なれない姿だった。

苦楽夢「………誰?お前。」

???「え。」

皇雀「声が紅腕狼に似てなくもないけど…どちら様?」

???「や、やだなぁ。ちょっと待って下さいよぉ!

僕がわからないんですか!?」

苦楽夢「わからねえ。」

皇雀「ちょっと……」

???「やれやれ、仕方ないなぁ…〈言いながら帽子と髪を結っていた紐を解く〉
     これなら、わかりますか?」

苦&皇「紅腕狼!!」

紅腕狼「あ〜よかった〜…ここの所、新しい天界の再編でずっと忙しくて。
     ゆっくりお話する時間もロクに取れませんでした。」

苦楽夢「新しい天界の…って、お前、何か役についてんのか?」

紅腕狼「申し遅れました。僕、実は『西天賢老』として叉嬋羅様の補佐役になったんです。」

皇雀「『賢老』って…以前清準賢老がいた地位でしょ?」

紅腕狼「ええ……反逆者である僕が、大元老に継ぐ地位にいるなんて、
     まだ信じられませんよ。」

苦楽夢「紅腕狼。……自分を責めるなって。
     で、お前が『賢老』になったって事は、大元老は誰がなったんだ?」

紅腕狼「お気づきの通り、ちゃんと清準様が『清準大元老』と称して引き継いでくださいました。」

皇雀「よかった…」

紅腕狼「他にも、叉嬋羅様の補佐役がいるんですよ。」

苦楽夢「誰だよ?」

紅腕狼「他に後一人:極竜仙姑様が僕や清準様と並ぶ叉嬋羅様の補佐役に、
     悪陣神様の童子だった邪韓竜童子が叉嬋羅様付きの童子になりましたよ。
      ……明染童子が、ああなってしまいましたから……」

苦楽夢「悪陣神が許したのか?あいつだって童子がいるだろう。」

紅腕狼「僕もそう思いましたよ。でもあの方は「背に腹は変えられない」とのことで…」

皇雀「一見平和そうな天界も、内面では切り詰めているのね…」

紅腕狼「まだまだ、これからが大変ですよ。今回の大戦で大分重要な童子や神々が犠牲になりました。
     また新たに弟子探しからやり直さなくちゃならないんですよ。」

苦楽夢「大変だな。お前らも。」

皇雀「がんばってね。」

紅腕狼「ありがとうございます…って、お二人揃って、何してたんですか?」

苦楽夢「いや、そろそろオレ達人間界に帰ろうかと思って―――」

紅腕狼「帰るだって!?〈大声で驚く〉」

皇雀「そ、そうだけど…もうあたし達の用は済んだし、
    特にいなきゃいけない用事も無いし…」

苦楽夢「天界の再編には、かえってオレ等がいない方がさくさく進むんじゃねえのか?」

紅腕狼「それは…………〈言葉につまりうつむく〉でも…でも僕は…〈拳を握り締める〉
     僕はあなた達と共にいたいんです!!」

苦楽夢「!?紅腕狼?」

いけないことだとは…わかってる。

彼等はあくまでも「神」の「生まれ変わり」の「人間」なのであって

決して神ではない。

だからここに住まう事は許されない。…・それはわかってる…

わかってるけど、でも…!!