いつもどこでも

 

タンタンタタンッ タンタンタタン・・・

今日も一人、陽のあたる部屋で踊る天使が一人。

タンタタンッ タンタンタタッ

それは情熱の踊り。激しく燃え上がる熱情を表す踊り。

ッパパンッ ドッ タン!

本来なら相方の男性がいるはずの踊りを一人寂しく踊り続けているのは・・・

この天使界で「聖なる令嬢」の別名を持つ御前天使の一人、ジブリール。


「・・・・・」

無言で足元の影を見詰める。しかしいくら眺めても影は一人。

・・・・・わかって、いますのに・・・

・・・・・もう、どれだけ待っても。あの天使は来ないのだと――


2000年と少し前。
「彼」は突然現れた。

その時、彼女はただ偶然来ていた下層の天使界で
ぼんやりと辺りを眺めていただけだった。

・・・・まったく。御前天使と言っても私は所詮「伝言者(メッセンジャー)」。
他の3人と比べてみても・・・どう見ても私は仕事をしているようには
思われませんもの。
・・・・他人の目なんて、別に私は気になんてしませんのよ?
・・・・・ただ、こうして過ぎていく毎日に、意味がほしいだけ―――

その時、目の前を慌しく駆け抜けていく影があったが、
別に気にはならなかった。

「・・・・・リール、ジブリール」
「・・・・・・・」
「・・・・人の話くらい聞いたらどうだ!!ジブ嬢!!」
「!! なっ 何ですの!?
 いきなり大声を出さないで下さる!?ウリエル!!」

彼女と同じ御前天使の一人にして善悪の監視者の一人でもあるウリエル。
ひょんなことからこのジブリールとそれなりに親しくなった彼は彼女をいつしか
親しみの証として「ジブ嬢」と呼ぶようになっていた。
そしてその彼が今、聞くところによればある男を追いかけているところだという。

「・・・で、見なかったか、奴を。」
「”コソドロ天使のメファシエル”でしたかしら?」
「そうだ。確かこの辺りを走っていったところまでは追跡できたんだが、
 あいにくその後で見失ってな。・・・逃げ足の速いコソドロはこれだから困る・・・」

言いながら彼は片眼鏡を機嫌悪そうに外す。

「それでどうなんだ、見たのか見てないのか」
「知りませんわ。第一見失ったのは貴方ですのに、
 どうして無関係の私が助言などしなくてはいけませんの?」
「なっ・・・・そ、そういうお前は仕事すらしていないくせに・・・・っ」
「いけなくて?無い仕事はする事などできなくてよ?」
「・・・・悪かった。他をあたるさ」

少しの沈黙の後、彼はそう言って去った。
しばらくその姿を目で追っていると、いきなり声をかけられる。

「あー助かったぁっ! ありがとな、俺をかくまってくれて!」

「・・・はぁ!?」

背後から現れたのは、見た事も無い天使だった。
頭に二本のバンダナを巻き、腕や耳、首にはいくつもの飾り。
肩耳からぶら下がっているのは覆面用のマスク・・・だろうか?

「・・・どなたですの?」
「・・・あれ? もしかして知らずに・・・?」
「「・・・・・・・・・・」」

まさか、まさかとは思うがまさか。

「あなた、メファシ―――!!」
「しーーーっっ!! しーーーーっっ!!
 今そんな大声で呼ばれたらウリエルの野郎が戻ってきちまうだろ?」
「」







「扉を開ける者。それが俺の名前!いいだろ?」



「そっか・・あんたが・・・・」
「・・・・あんたがジブリールでよかったよ。
 むしろ俺は、ジブリールはあんたでなきゃ嫌だ。
 だってあんたは・・・・こんなにも輝かしいじゃないか・・・ガブリエル(聖なる令嬢)?」










会いたい。せめてもう一度。
あの頃よりも上手くなったこのダンスを二人で踊りたい。
私など足元にも及ばないくらい輝いたあの笑顔を見せて欲しい。
その手で、私の頬に触れて。そして、この涙を拭って。

その名の通りに、私の心の扉を・・・・開けて・・・・