邂逅

 


「!」
気配に気付いたリズヴァーンは
何かを言いかけた望美の口を制してその元を探る。
「・・・リズ先生?」
「・・・・・・来る。」
「え?」
「神子、こちらへ。」

望美には有無を言わせずリズヴァーンは彼女の手を引き、
そのまま自分のマントで彼女を隠すように包み込み、物陰に隠れた。
あまりに突然で、しかもこれまでに無いほど近くにある師匠の端正な顔に
望美は少なからず動揺を覚えた。
「・・・せ、先生!?」
「隠形の術だ。今の我らの姿は陰陽師でもない限り見る事は出来ない」
「ど、どうしてそんな――」
「来たぞ。」

またもや言葉を途中で切られてしまった望美だったが、
とりあえずリズヴァーンの視線の先を追う。

―――進んできたのは、赤い毒蛇を連想させる、長い「赤」の行列。
所々に見える揚羽の紋は平家の証だと教わった。
「やつらにもお前の存在は知れていよう。
 この列が過ぎるまでは何があっても私から離れるな。面倒を起こしたくない。」
「・・・・・・はい・・・・・・」
小声で返事をして、また行列に目をやる。
――先生にも、皆にも迷惑をかけたくない―――
そう思ったから、必死で身を潜めていたのに。


・・・・・・見つけて、しまったから・・・・・・

「!!」

赤の中に、一際映える青を見つけた。
その人は確かに赤い羽織を着ていて、
その羽織の裏地には大きな揚羽が染め抜かれていて――
でも、間違うはずが無かった。

「将臣!!」

夢の中でしか会えなかった彼が、
引き留めようと手を伸ばせばいつも空を切っていた、その青い髪が今、
手を伸ばせば届くところにいる。

――ねえ、どうして平家と一緒にいるの? どうして将臣はこっちに来ないの?
これからどこへ行くの? 何をする気なの?ねえ――

「将臣!気付いて!!私だよ、望美よ!!
 ここにいるのよ! ねえ!!将臣!!!」
リズヴァーンの隠形の事も忘れて、ただがむしゃらに叫び続ける。
無論、将臣には届くはずも無い。
彼は望美と視線を合わせることも無く、彼女の前を通り過ぎようとしていた。

その時。

――どこにいるんだよ・・・望美・・・――

泣きそうな、悔しそうな声で、彼が小声でつぶやいたのを、
彼女は確かに聞いた。
居ても立ってもいられなくなって思わず伸ばそうとした手は――

「・・・駄目だと言ったはずだ」

――夢と同じく空を切って、彼はまた去っていった――

伸ばしかけた彼女の手を掴んで制止したのは、他でもない彼女の師。
彼はあえて望美の方を見ようとはせず、
小さくなる将臣の姿を未だ目で追っているであろう少女に
厳しく言い放つ。

――少女の細い小さな肩は、小刻みに震えていた。

これが現実なのだと、耐える為に。
泣く事さえ許されないこの現実を、懸命に受け止める為に。
・・・目を、逸らさないために。

何故なら。

「これが、お前の選んだ運命なのだから。」



完。

えー、ついにフライングです(笑)
しかも恐れ多くもリズ師匠の・・・アワアワ・・・

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